銀行や金融サービス機関にとって、デジタル トランスフォーメーションは大規模なプロジェクトです。ここ数年、業界のリーダーらはデジタル トランスフォーメーションに伴う課題に対処するため、大小さまざまなプロジェクトを慎重に実施してきましたが、その多くがなかなか成果を上げることができず、容易ではない状況が続いています。Gartnerによると、銀行および投資業界のCIOの49%、保険業界のCIOの44%が、2021年に自動化への投資を拡大する予定であることの理由もそこにあります。1
この記事では、デジタル トランスフォーメーションに正面から取り組んでいる金融機関が直面している5つの課題をご紹介します。
1. 貧弱なデジタル エクスペリエンス
カスタマ エクスペリエンスが貧弱であることは、顧客離れや収益の損失に直結します。優れたデジタル エクスペリエンスを求める顧客の声の高まりに対応できないと、銀行や金融サービス企業は市場シェアを失い、収益性を低下させるリスクを抱えることになります。
よりスムーズなエクスペリエンスを求めるこの需要は、フィンテック推進企業がよりシンプルで迅速なデジタル エクスペリエンスや、マネー ガイダンスなどを備えたアドバイザ テクノロジのように「人を感動させる」機能を提供することでさらに加速しています。実際、最近行われたMcKinsey & Companyの2020年の調査によると、米国の財務決定者の40%がフィンテック企業のアカウントを持っていると答えています。2
COVID-19パンデミックほど、より優れたデジタル エクスペリエンスへの需要を加速させたものはありません。J.D. Powerの報告によると、2020年の第1四半期には調査に回答した消費者の30%でパンデミックが始まる前よりもモバイル バンキング アプリケーションの利用が増え、35%でオンライン バンキングの利用が増えていることがわかります。3 Mastercardの報告によると同時期に世界の消費者の79%とアジア太平洋地域の91%が非接触型のタップ&ゴー決済を現在利用しており、その大多数がパンデミックが終わった後も非接触型決済を利用すると答えています。4
2. 進化するセキュリティの脅威
顧客が複数のチャネル、デバイス、タッチポイントを経由してアカウントにアクセスする機会が増えているため、デジタル アクセス ポイントはサイバー犯罪者にとって格好の標的となっています。F5 Labsが発表した2021年版アプリケーション プロテクション レポートによると、金融および保険業界ではランサムウェア(影響を狙ったデータ暗号化[T1486])をはじめとする最も一般的な攻撃手法の多くが確認され(以下の図1を参照)、フィッシング攻撃とクレデンシャル スタッフィング攻撃がどちらも比較的高い割合で発生していることが報告されています。また金融業界では、インサイダー攻撃と物理的なデータ漏洩の割合が最も高くなっています。5
CAPTCHAやSMSベースの多要素認証(MFA)のようなセキュリティ対策は、カスタマ エクスペリエンスを損なうことを念頭に置く必要があります。顧客が満足しなければ、収益の減少、顧客の不満、サポート コストの増加のリスクが生じます。皮肉なことに、不正行為を行う者はこれらのツールを簡単に回避します。アカウント所有者の満足度を保ちながら不正行為を防止するには、より効果的でプライバシーに立ち入りすぎないセキュリティ戦略が必要です。 |
3. 迅速なアプリケーション イノベーションの実現
複雑なレガシー ネットワーク アーキテクチャに起因する非効率性は、運用コストを著しく増大させます。多くの組織のネットワーク アーキテクチャが非常に複雑で、人為的なミスが発生しやすい状態になっています。それらを管理して維持するには、膨大な時間とリソースが必要です。オープンAPIを使用してフィンテック企業(別名オープン バンキング)と提携することで、一部の銀行は顧客のために優れたデジタル エクスペリエンスを新たに構築できましたが、それによって発生する大量のAPI呼び出しは、遅延とセキュリティの問題を引き起こし、コストを増加させます。
4. 複雑なアプリケーション ポートフォリオと開発プロセス
多くの銀行や金融サービス企業は、人為的なミスが発生しやすく、非常に複雑なアプリケーション ポートフォリオを抱えています。それらを管理するには多額の運用投資が必要となり、総所有コストが増加し、ますます非効率的で安全性の低下しているレガシー アプリケーションの保守に貴重な時間とリソースが費やされています。特にレガシー アーキテクチャや、非効率的な手動プロセス、社内チームのレビューや手順がアプリケーション開発ライフサイクルにうまく統合されていないことなどがアプリケーション開発チームの妨げとなっています。このような混乱がイノベーションを遅らせる傾向にあり、最先端のカスタマ エクスペリエンスを提供することを非常に困難にします。
5. 規制上の課題
銀行や金融サービスに関する規制は、運用コストに直接影響します。運用コストの10%を規制コンプライアンスに関連する機能に費やしている企業もあります。6 規制によって科される罰金と規制要件の増加によるOpExの上昇によりパフォーマンスが低下し、理想的ではないカスタマ エクスペリエンスがもたらされています。フィンテック企業は規制に関する扱いが異なり、この点については業界のリーダーらから競争上の優位性として不公平であるという指摘がしばしば行われています。例えば、JPMCのCEOであるJamie Dimon氏は最近、銀行、フィンテック企業、ノンバンクの間で「公平な競争の場」を作ることを目的とした政府規制を求めています。
最終的な目標は2つあります。
1. 最新のフィンテック機能や能力に対抗するために、高い安全性と迅速なイノベーションを実現する
2. 自動化とセルフサービスにより安全なアプリケーションのモダナイゼーションを成功させ、複数の環境にわたってアプリケーションとAPIを提供する
イノベーションとデジタル最適化にバランスよく取り組む
組織はアプリケーションのパフォーマンス、セキュリティ、コンプライアンスを自動化パイプラインに直接組み込むことで開発速度を向上させ、開発者のダウンタイムを最小限に抑えて、パフォーマンスを最適化する必要があります。また、自動化によってオーバーヘッドを削減する適応型アプリケーション ソリューションと、特定の環境に縛られることのない柔軟なマネージド サービスを活用することで、デジタル トランスフォーメーションの道のりを迅速に進める必要があります。
カスタマ エクスペリエンスの向上
結局、組織が成功するかどうかは、顧客が満足し、関心を持ってくれるかどうかにかかっています。そのためには、モバイルやオンラインで非常にスムーズで革新的なカスタマ エクスペリエンスを実現することが第一の目標であり、それはデジタル トランスフォーメーションの大きなメリットでもあります。
それにより、次のことができるようになります。
セキュリティとパフォーマンスの向上
イノベーションは最優先事項ですが、セキュリティやパフォーマンスを犠牲にしてはなりません。適切なソリューションを導入すれば、どれかを選択する必要はありません。
それにより、次のことができるようになります。
イノベーションとモダナイゼーションの加速
ツールとインフラストラクチャをモダナイズすることで、フィンテック企業に対抗するだけでなく、優位に立つことができます。
それにより、次のことができるようになります。
デジタル トランスフォーメーションは、銀行や金融サービス企業がフィンテック企業と効果的に対抗するのに役立ち、イノベーションとアプリケーションのモダナイゼーションを加速し、パフォーマンスとセキュリティを効果的に両立させ、顧客が期待する優れたデジタル エクスペリエンスを提供することを可能にします。
[1]「Gartner:金融サービスにおける自動化に成功するための4つのステップ」、Finextra
[2]「パンデミックで米国の顧客のフィンテック企業に対する姿勢がどのように変化しているか」、McKinsey and Company
[3]「パンデミックで急増しているデジタル バンキングはこのまま続くのか」、American Banker
[4]「Mastercardの調査によると消費者はよりクリーンで触れない方法を好み、日常の買い物で非接触型決済に移行している」、Mastercard
[5]『2021年版アプリケーション プロテクション レポートの補足:業界とその進路』、F5 Labs
[6]「インテリジェント オートメーションが次世代の金融サービスの創出にどのように貢献しているのか」、techUK
[7]「JPMorgan ChaseのCEO、Jamie Dimon氏:フィンテック企業は銀行にとって「巨大な競争力」を持つ脅威である」、CNBC
[8]『2020年版アプリケーション サービスの状況:金融サービス編』、F5