運用エクスペリエンスの危機

「State of Application Strategy Report 2025」から得られたインサイト

執筆者:Lori MacVittie

はじめに

組織がデジタルサービス提供の迅速性、セキュリティ、効率性を追求する中、運用の複雑さが大きな障壁となっています。マルチクラウド、分散アプリ、ハイブリッドアーキテクチャへの依存が高まるにつれ、IT運用チームは時間のかかる作業や分断されたワークフローへの対応を迫られています。従来の指標では、運用担当者が日々直面する負担の積み重ねを捉えきれません。

“事実:回答者の70%が、優れたデジタル体験を測る技術指標として、パフォーマンスが最も重要だと回答しました。 ”

このギャップを埋めるために、複合指標である「Operational Experience Score(OES)」を導入します。この指標は、運用上の負担を定量化し、自動化、特にAIを活用した運用(AIOps)が不可欠となる領域を明らかにするために設計されています。ITチームの運用効率や、ボトルネックと非効率性が存在する箇所を、データに基づいて明確に把握できます。

評価方法とスコア算出式

他の技術分野で「エクスペリエンス」をどのように測定しているかを調査し、その結果を基に、3つの柱にわたるデータを集約する算式を導き出しました。

タスク生産性(TP) – タスクの完了に必要な手作業の量を測定します。スクリプトの作成、APIの直接操作、日常的なアクションの手動承認に大きく依存しているチームでは、TPスコアが低くなります。

ワークフロー効率(WE) – タスクの実行に要する時間と複雑さを考慮します。WEスコアが高い場合、ツールの分断、プロセスの遅延、または人手への依存度の高さにより、所要時間が長いことを示します。

ユーザー満足度(US) – 実務担当者がツールやワークフローにどの程度満足しているかを、オートメーションの受容度、設定のしやすさ、結果への信頼度などに基づいて把握します。

このアプローチでは、満足度が高いほど評価が上がり、手作業や非効率性が大きな割合を占める環境では評価が下がります。これを「Operational Experience Score」と呼びます。

OESの算出には、3つのスコア構成要素それぞれに対応付けた構造化アンケートの回答を使用しました。データセットには、「State of Application Strategy Report 2025」の調査に回答した、適格なIT意思決定者および技術担当者500人超のデータが含まれています。

全回答者のOES平均値は「5.50」で、業界セグメントによって大きなばらつきが見られました。結果は以下のとおりです。

OESスコアの最高値は10です。10は最適なエクスペリエンス(タスクの複雑さが低く、効率と満足度が高い)を、1は不十分なエクスペリエンス(複雑さが高く、効率と満足度が低い)を示します。

重要なポイント

  • 41%の回答者が、業務で最も時間がかかるのは「ベンダーAPIの利用」または「スクリプトの作成」だと回答しました。

  • 38%が、AIによる構成とポリシーの自動調整を望んでいます。

  • 56%が、ワークフローを迅速化するためにAIが生成する提案を求めています。

  • 自動化ワークフローでAIを使用したくないと回答したのは、わずか6%でした。

このデータで際立っている傾向の1つは、規制の厳しい業界でOESが著しく低いことです。金融サービス、政府、エネルギー/公益事業の各分野では、運用上の摩擦が一貫して大きくなっています。これは必ずしも意外なことではありません。これらの業界には厳格なコンプライアンスの枠組みがあり、多くの場合、手作業による確認、厳格な承認プロセス、時間のかかる変更サイクルが求められます。そのため、自動化ツールを利用できる場合でも、チームがその機能を十分に活用できないことがあります。

さらに、規制対象の環境ではレガシーインフラストラクチャが長く残る傾向があり、統合やモダナイゼーションに関する課題が生じ、ワークフローの効率に影響を及ぼします。また、こうした分野の実務担当者がAIの導入に意欲的であっても、ポリシーやリスク回避の姿勢によって導入が遅れることが少なくありません。OES指標は、このような障壁を可視化し、適切にガバナンスされたAIOpsが、デリバリーを加速しながらコンプライアンス対応の負担を軽減するうえで重要な役割を果たし得ることを示しています。

分散+スケール=運用上の負担

最新のアプリケーション環境は、デプロイ先が多岐にわたるだけでなく、扱うアプリケーションの数も多いため、複雑化しています。現在、ほとんどの組織は、パブリッククラウド、プライベートデータセンター、コロケーション、エッジ、SaaSなど、複数の種類のインフラストラクチャを利用しています。同時に、これらの環境全体で数十から数百ものアプリケーションを管理しています。

影響を定量化するため、2つの主要な変数に着目しました。

  • 分散度:アプリケーションがデプロイされている異なる環境の数。

  • 規模:管理対象となるアプリケーションの総数。

データからわかること:

  • 分散度とOESの相関係数:–0.22
    この負の相関は、アプリケーションをより多くの環境に展開するほど、運用エクスペリエンスが低下することを示しています。環境ごとに固有のツール、ポリシー、統合上の課題が生じるため、制御が分断され、対応が遅くなります。

  • アプリケーション数とOESの相関:+0.05
    アプリケーション数だけでは、運用上の負担との相関はほとんどありません。しかし、分散度と組み合わせると、より明確な傾向が見えてきます。アプリケーションと環境の両方が多い組織では、OESスコアが最も低くなっています。

アプリケーションの規模が拡大すると、垂直方向の負荷が増します。アプリケーションが増えるほど、管理すべき構成、ポリシー、更新も増加します。分散化が進むと、水平方向の複雑さが増します。環境が増えるほど、より多くの統合、可視化ツール、専門知識が必要になります。

これらが重なることで、業務遂行のスピードはますます低下します。

OESスコアが最も低い金融サービス、エネルギー、製造などの業界は、分散度とアプリケーション規模が最も大きい業界でもあります。一方、一般にアプリケーション数が少なく、インフラストラクチャのトポロジーがよりシンプルな教育および医療では、OESスコアが大幅に高いと報告されています。

重要である理由

運用チームは、複雑さへの対処に追われるどころか、その波にのみ込まれています。環境が分断され、規模が拡大するほど、ワークフローは脆弱になり、対応は遅れ、自動化の必要性はますます高まります。

運用上の課題

Operational Experience Scoreは単なる数値ではありません。現代的で分散し、多くの場合は断片化された環境を管理するうえで、ITチームと運用チームが直面する現実的な課題を映し出すものです。データ全体の傾向を分析すると、課題点に加え、自動化とAIOpsの導入が急務である理由を理解するうえで役立つ、いくつかのテーマが浮かび上がります。

1. 依然として手作業が中心

自動化ツールに長年投資してきたにもかかわらず、運用業務の多くは依然として手作業で行われています。これはレガシーシステムだけの問題ではありません。ツール間の分断、標準化の不足、そして当初から拡張を想定していなかったスクリプトやAPIによって生じる運用上の負担も要因です。

  • 41%の回答者が、ベンダーAPIの操作やスクリプトの作成は、ワークフローの中で最も時間のかかる作業だと回答しました。

  • クラウドネイティブな組織であっても、自動化は効率化されたオーケストレーションではなく、単なる「スクリプトの寄せ集め」にとどまっていることが少なくありません。

これは、ハードコードされたロジックや属人的な知識への依存を軽減する、よりインテリジェントで適応性の高い自動化が不可欠であることを示しています。

2. ワークフローの非効率性はシステム全体に及んでいる

データから、遅延や非効率性は特定のツールやプロセスだけに起因するものではないことが明らかになっています。むしろ、分断された承認経路、プロセスのサイロ化、統合されていないシステムによって生じる、組織全体の構造的な問題です。

  • 約30%の回答者が、承認や引き継ぎの待ち時間を遅延の主な要因として挙げています。

  • 18%が、ツール間の連携不足が非効率を招く主な要因であると回答しました。

これは、ワークフローの効率向上には、単にツールを増やすだけでなく、プロセスを再構築し、意図してから実行に移すまでの遅延を短縮するフィードバックループを構築することが重要であると示しています。

3. 摩擦が後押しする、AIへの高い受容性

自動化の成熟度にはばらつきがあるものの、役割や業界を問わず、AIツールの活用に対する意欲は一貫して高い傾向にあります。こうした関心は単なる仮定ではなく、業務上の負担が大きい領域と強い相関があります。

  • AIへの関心とOESの相関係数は–0.62です。つまり、最も大きな課題を抱えている層ほど、AIの導入に最も前向きです。

  • チームがAIに求めているのは、人間に取って代わることではなく、ログの要約、ポリシーの生成、ステータスレポートの作成、自動スケーリングなど、反復的でミスが起こりやすい作業に伴う認知負荷を軽減することです。

この意欲は、大きな可能性を示しています。最も大きな負担を感じているチームに権限を与えることで、現場主導によるAIOpsの導入を加速できます。

4. 規模の拡大と分散化に伴い、複雑さが増大

アプリケーションの規模と分散インフラが相まって、特有の運用上の課題が生じます。それぞれ単独ではOESへの影響は限定的ですが、両者が組み合わさることで、測定可能な運用上の負荷が発生します。

  • アプリケーション数が多く、複数環境に展開している業界(金融サービス、エネルギー、製造など)は、OESスコアが最も低い結果となりました。

  • 一方、アプリポートフォリオが小さく、環境の多様性も低い教育や医療などの業界では、スコアが大幅に高くなりました。

これは、複雑性が複合的な要因によって生じ、規模(垂直方向の負荷)と分散(横方向の広がり)が増すにつれて高まることを改めて示しています。そこで、自動化、特にAIOpsは、単に有用なだけでなく不可欠なものとなります。

5. 現状のままでは持続不可能

おそらく最も注目すべき点は、多くのチームが転換点に近づいていることです。増大する要求、増員のない人員体制、レガシーツール、手作業による回避策が重なり、持続不可能な運用上の負担が生じています。

  • チームから燃え尽きの兆候が見られます。

  • AIへの期待は、理想の追求ではなく、実用性を重視したものです。

  • そして、変化を受け入れようとする動きは、すでに始まっています。

データが明確に示しているのは、今後必要なのはスクリプトやツール、ダッシュボードを増やすことではなく、運用ニーズに応じて進化できる、インテリジェントでコンテキストを認識する自動化だということです。

処方箋はAI

AIが運用エクスペリエンスにどのように適合するかをより深く理解するため、AIと自動化に関する質問への回答を分析しました。具体的には、回答者が運用のどの領域にAIを適用したいと考えているか、またはAIを運用に活用する意向を示しているかを調べました。次に、AIに関する肯定的な回答の数を、各回答者の運用エクスペリエンススコア(OES)と比較しました。

  • AIへの関心とOESの相関係数:-0.62

これは強い負の相関であり、明確な傾向を示しています。つまり、運用上の負担が大きいチームほど、AIによる支援を強く求めています。言い換えると、ログの要約、ポリシーの調整、構成の生成などでAIの支援を最も強く求めているチームは、運用エクスペリエンスのスコアも最も低くなっています。

これにより、AIOps導入の緊急性が一層明確になります。組織がAIを求めるのは、目新しさのためではありません。現在直面している業務上の摩擦を解消するために必要な手段として、AIを活用しようとしています。規模の拡大、複雑化、旧来のプロセスなど、原因が何であれ、こうした課題を背景に、インテリジェントでコンテキストを認識し、運用に組み込まれた自動化への需要が現場から高まっています。

このデータから、AIOpsへの関心は将来への期待ではなく、実用性に根差していることがわかります。回答者が求めているのは、まだ不確かな将来のユースケースではありません。現在のワークフローで時間を浪費する作業をなくし、手作業の複雑さを軽減することです。

スクリプトの作成、ログの要約、サービスのスケーリングといったタスクは、最先端の取り組みではなく、最新のインフラストラクチャを運用するうえで日常的に発生する負担です。回答者がAIの支援を求めているのは、まさにこうした領域です。

この結果から、明確な結論が導き出されます。AIの活用に最も意欲的なチームほど、燃え尽き寸前の状態にあります。

中核的な運用タスクの自動化、効率化、拡張を支援するツールが求められています。断片化したスクリプト、脆弱なワークフロー、手作業によるトリアージに依存する現状は、持続可能ではないためです。

これは、OESフレームワークの中心的な主張を裏付けるものです。運用の複雑さは測定可能であり、深刻な負担をもたらし、IT運用におけるAI需要の高まりと密接に関連しています。

Operational Experience Scoreは、明確かつ定量的な兆候を示しています。現代のIT運用は限界に達しつつあります。規模の拡大、分散化、複雑化が相まって、従来のツールや人手を前提としたプロセスでは対応しきれなくなっています。その結果、業務上の摩擦や運用コストが増大し、技術チーム全体で燃え尽き症候群のリスクが高まっています。

AIOpsこそが、拡張性を確保しながら前進する唯一の道

グローバル版「State of Application Strategy Report 2025」のデータが示す事実は明白です。業界を問わず、運用上の最大の課題は特殊なものではなく、痛感するほど身近なものです。

  • 分断されたデプロイトポロジーが、パブリッククラウド、プライベートデータセンター、コロケーション、エッジ、SaaSにまたがっています。

  • 増加・加速するアプリケーション(特にデジタル化が高度に進んだ業界)

  • 脆弱なスクリプトと属人的な知識への依存が続いていること。そのため、基本的な自動化でさえ不安定になり、拡張が困難です。

こうした現実は今に始まったことではありません。しかし、人の力だけでは解決できないという認識が広がっている点は、新たな変化です。

それでも、明るい兆しがあります。実務担当者は準備ができています。

調査結果から、課題を最も身近に感じている人ほど、変革にも最も前向きであることがわかります。

  • 56%が、反復的または複雑なタスクでのAIによる支援を希望しています。たとえば、ログの要約、スクリプトの生成、ポリシーの適用などです。
  • 38%が、AIに構成の自動調整と意思決定を求めています。単なる提案にとどまりません。
  • わずか6%がAIツール全般に関心がないと回答しており、変革への意欲がいかに広く浸透しているかを浮き彫りにする少数派となっています。

これは文化的な変化を示しています。チームはAIを恐れているのではなく、むしろ活用を求めています。人間の判断に取って代わるためではなく、それを補強し、迅速化し、単調な作業から解放するためです。

行動しないことの代償は、もはや隠せません

連携の不具合を修正するために作成されるスクリプト。手動承認によって遅延するデプロイ。システム間で連携できないために作成されるチケット。これらは些細な不便ではなく、積み重なって運用上の負債を増大させる要因です。

そして、デジタルパフォーマンスがビジネスの成果を左右する世界では、その負債は次の問題に直結します。

  • 市場投入までの期間の長期化

  • セキュリティおよびコンプライアンスのリスク増大

  • 燃え尽きや過重労働による人材流出

OESは、この隠れたコストを正確に明らかにし、どのような組織が後れを取るリスクが最も高いかを示します。

AIOpsは、運用成熟度の自然な進化形

インフラストラクチャが物理環境から仮想環境、さらにクラウドネイティブへと移行してきたように、運用も手作業からインテリジェントな運用へと進化する必要があります。AIOpsは一過性のトレンドではなく、企業運用の進化における次の成熟段階です。

AIOpsを導入する組織は、次のことが可能になります。

  • 単なるタスクではなく、煩雑な作業そのものを自動化

  • チームが構文ではなく戦略に集中できるようにします

  • リアルタイムで学習、調整、対応する適応型システムを構築

そうでない企業はどうなるでしょうか。ビジネスのスピードに追随できないワークフローに縛られ続けることになります。

AIOpsは、複雑化によって生じる運用エクスペリエンスの危機に対処するために必要な進化です。もはや「あれば便利」なものではなく、不可欠なものです。


付録:調査の質問、回答、結果の概要

タスクの生産性

  • 41%の回答者が、最も時間のかかるタスクとして「ベンダーAPIの利用」または「スクリプトの作成」を選択しました。

  • 56%が、スクリプトの生成、ログの要約、テレメトリの操作にAIの支援を求めています。

  • 32%が、デリバリーおよびセキュリティサービスの管理にサードパーティ製の自動化またはオーケストレーションプラットフォームを利用しています。

  • 現在、自動化に関連して最も時間がかかっている作業は何ですか?

  • 生成AIによる支援を希望するIT運用タスクを、以下から選択してください。(複数選択可:ログの要約、ステータス更新、テレメトリインターフェース、スクリプト生成)

  • 現在、アプリケーションデリバリおよびセキュリティサービスをどのように管理していますか?(例:スクリプト、オートメーション/オーケストレーションツールの使用)

ワークフローの効率化

  • 38%の回答者が、AIによる構成の自動調整やポリシーの適用を望んでいます。

  • 29%が、承認や引き継ぎの待ち時間が遅延の主な要因であると回答しました。

  • 18%が、ツール間の連携不足が効率的なワークフローの妨げになっていると回答しました。

  • 現在、自動化に関連して最も時間がかかっているタスクは何ですか?(遅延の指標として)

  • IT運用でAIと自動化をどのように活用したいかを選択してください(例:自動調整、提案の生成)。

ユーザー満足度

  • 65%が、ロギングや構成などのプログラマビリティ機能を「非常に重要」または「極めて重要」と評価しました。
  • 63%が、カスタムワークフローの主要なスクリプト言語またはプログラミング言語としてPythonを選好しています。
  • わずか6%が、自動化にAIを一切使用したくないと回答しました。
  • プログラマビリティ機能(ログ記録、セキュリティポリシーなど)の重要度を評価してください
  • どのプログラミング言語を使用したいですか?
  • AIを活用してタスクを自動化する意向があるか、AIの関与を望まないか。

分散度とアプリケーションフットプリント

  • デプロイ済みアプリケーションの平均数: 140
  • 使用しているデプロイ環境の種類の平均数:2.3
  • アプリケーションの分布(回答者全体の平均):
    • パブリッククラウド:36%
    • オンプレミス(従来型):27%
    • オンプレミス(クラウドネイティブ):12%
    • コロケーション:14%
    • エッジ:11%
  • デプロイ済みのアプリケーションはいくつありますか?
  • 何社のパブリッククラウドベンダーを利用していますか?
  • 利用しているコロケーション/オンプレミスのデータセンターはいくつありますか?
  • アプリケーションのうち、以下の環境にデプロイされている割合はそれぞれ何%ですか:
    • パブリッククラウド
    • オンプレミス(従来型およびクラウドネイティブ)
    • コロケーション
    • エッジ
    • SaaS

付録:JSON-LD形式(機械可読、LLM向け)

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