アプリケーションワークロードのパブリッククラウドへの移行
はじめに
あらゆる業界・分野の企業や組織が、俊敏性の向上、市場投入期間の短縮、柔軟な従量課金モデルの活用を目的として、アプリケーションをIaaSパブリッククラウドプロバイダーへ移行したり、新たに導入したりしています。収益を生み出すアプリケーションであっても、ビジネスに不可欠なアプリケーションであっても、関連する可用性、パフォーマンス、セキュリティの各サービスを含め、一貫して優れたユーザーエクスペリエンスを確保する必要があります。しかし、クラウドデータセンター固有の設計、各クラウドプロバイダーのアプリケーションデリバリおよびセキュリティ機能、可視性と制御の全般的な不足を踏まえ、クラウドに適したワークロードを見極めることなど、対処すべき課題があります。
こうした課題により、カスタマイズされたクラウド実装に時間とコストがかかり、クラウドベンダーの選択や移行が妨げられ、セキュリティ脆弱性のリスクが高まる可能性があります。本書では、アプリケーションをパブリッククラウドへ正常に移行するための主な考慮事項と既知の阻害要因を検討します。また、主要なクラウドIaaSプロバイダーで柔軟なライセンスモデルを利用できるF5® BIG-IP®のアプリケーションサービスおよびセキュリティサービスの導入が、その成功に不可欠な要素であることを解説します。
クラウド導入の障壁

アプリケーションのパブリッククラウド移行における課題
パブリッククラウドのメリットは広く認識されていますが、マルチテナント向けに設計されたパブリックIaaSプロバイダーのデータセンターと、企業のプライベートデータセンターとでは、アプリケーションの実行環境に大きな違いがあります。パブリッククラウドプロバイダーは、大規模な拡張性を念頭にデータセンターとネットワークを設計し、仮想化、コモディティ化、標準化によってコストを削減しています。ネットワークを制御できる範囲も異なり、マルチキャストや802.1q VLANタギングなどのL2機能へのアクセスは制限されます。また、アプリケーションごとに割り当てられる外部公開用IPアドレスが1つだけの場合もあります。コンピューティング容量を追加する際は、高性能な専用ハードウェアによるスケールアップではなく、多数の小規模インスタンスによるスケールアウトが行われるため、特定の要素やノードでの状態維持に直接影響します。
クラウドへの移行に適したアプリケーションワークロード
パブリッククラウドへの「リフト&シフト」が理想的な目標ではあるものの、設計変更や全面的な再設計を行わなければ移行できないアプリケーションもあります。パブリッククラウドに移行するアプリケーションと、必要な変更を見極めることが重要です。移行するアプリケーションを決定する際は、次のような点を検討し、基準に含める必要があります。
- アプリケーションはすでに仮想化されており、クラウドプロバイダーのインフラストラクチャ上で実行できますか?
- クラウドプロバイダーは、厳格なデータ保護ポリシーを満たしていますか?
- アプリケーションには、どのレベルのサービスレベル契約が必要ですか?クラウドプロバイダーは、どのような稼働時間保証や高可用性機能を提供していますか?
- ネットワークと管理に関する要件は何ですか?クラウド環境でも同じ要件を満たせますか?
アプリケーションとセキュリティに関する懸念事項
すべてのアプリケーションには、場所を問わず、アプリケーションサービスとセキュリティサービスが必要です。可用性、パフォーマンス、セキュリティに関するツールセットやサービスはクラウドプロバイダーごとに機能や管理方法が異なり、考慮すべき追加コストが発生する場合もあります。要件に合わせてこれらの新しいサービスを習得し、設定するには、時間、テスト、トレーニングが必要です。そのため、複数のクラウドプロバイダーを利用する戦略では、切り替えコストが過大になり、クラウドベンダーロックインにつながる可能性があります。特に重要なのは、アプリケーション固有の要件によっては、これらのサービスが十分でない場合や、現在利用しているものと同等の機能を提供できない場合があることです。これにより、クラウドプロバイダーを選択する際のビジネス上の柔軟性が制限され、クラウド移行のリスクと複雑さが増大する可能性があります。主な課題は3つあります。
1. セキュリティ
90%の組織がセキュリティ上の懸念を抱えています

パブリッククラウド上のアプリケーションのセキュリティを確保することは、ほとんどの組織にとって最大の懸念事項です。複数の大規模DDoS攻撃とアプリケーション層への攻撃(OWASP Top Ten、クロスサイトスクリプティング、SQLインジェクションなど)を組み合わせた、高度で複合的なL3~7のセキュリティ脅威から保護することが極めて重要です。クラウドプロバイダーの基本的なセキュリティツールを使用する場合、アクセスおよびアプリケーションのセキュリティポリシーに一貫性がなくなることも考慮する必要があります。これにより攻撃対象領域が拡大し、ユーザー、特に悪意のある攻撃者に対するアクセス権のプロビジョニングおよびプロビジョニング解除に関連する脆弱性が露呈する可能性があります。組織には、実績のある一貫したセキュリティポリシーとアクセス制御を、プライベートデータセンターとクラウドの両方で再現し、適用できる機能が必要です。
2. 可用性
基本的な負荷分散を超える高度なトラフィック管理は、通常、ビジネスクリティカルなアプリケーションや大規模なエンタープライズアプリケーションに導入されます。クラウドプロバイダーが基本的な負荷分散サービスを提供している場合でも、HTTP/HTTPSおよびTCP以外に、どのプロトコルへの対応が必要かを検討する必要があります。基本的なヘルスチェックと、ハッシュベースおよびラウンドロビン方式の負荷分散アルゴリズムだけで十分でしょうか。多くの場合、アプリケーションデータの操作が必要となるため、URLの検査や書き換えなど、完全なL7プロキシ機能が求められます。
クラウドプロバイダーは、インフラストラクチャの稼働時間とレジリエンスをどのように確保しているでしょうか。大手プロバイダーでは通常、インフラストラクチャの可用性目標を99.95%としていますが、要件を満たさない可能性があります。さらに重要なのは、リスクを把握し、障害の影響を軽減する方法を見つけることです。一部のプロバイダーは、自然災害などの重大な障害が発生しても可用性を維持できるよう、複数の地域に冗長化されたデータセンターや拠点を設けています。この冗長性を活用するには、具体的な実装の詳細、レイテンシ、フェイルオーバーと復旧に要する時間を考慮した慎重な計画が必要です。
3. パフォーマンスとスケーラビリティ
エンドユーザーの体験と生産性は引き続き極めて重要であり、クラウド移行後のアプリケーションのパフォーマンスに左右されます。データセンターがユーザーから遠くなる場合、エンドユーザーとアプリケーション間のレイテンシーが増加し、パフォーマンスに影響する可能性があります。また、キャッシュ、圧縮、TCP最適化など、一般的に使用される手法を利用できない場合もあります。ユーザーを最寄りのロケーションに誘導できるようにすることも要件の1つです。
パブリッククラウドへ移行する主な理由の1つは、事前定義されたしきい値に基づき、計画的または突発的な需要の急増に対応できるよう、必要に応じてリソースを柔軟に割り当てられることです。短期的なキャパシティ需要の急増や、需要の大幅な変動が予想されるアプリケーションは、パブリッククラウドプロバイダーへの一時的な移行により適している可能性があります。
可視性の欠如と一貫性のないポリシー
データセンターからクラウドへアプリケーションを移行する際に、アプリケーションとともに移行できないアプリケーションサービス、セキュリティサービス、およびポリシーについては、クラウドプロバイダーごとに個別の実装が必要になります。ワークロードを別の場所へ移動すべきタイミングを判断するには、アプリケーションのパフォーマンスとセキュリティ、およびユーザーによるアプリケーションへのアクセスを把握する必要があります。そのためには、あらゆる導入インフラストラクチャにわたって、ユーザーとアプリケーションのやり取りやユーザーエクスペリエンスを可視化することが求められます。アプリケーションやプロバイダーごとにポリシーが乱立し、ばらつきや複雑さが増すうえ、一貫した可視性が欠如すると、OPEXの増加、サービス提供速度の低下、カスタマーエクスペリエンスの悪化につながる可能性があります。
F5がクラウド移行の成功を支援する仕組み
アプリケーションサービスとセキュリティサービスを提供するBIG-IPプラットフォーム
上記の課題に対処するには、プライベートデータセンターとクラウドプロバイダーにまたがって利用できる、高度でプログラム可能なアプリケーションデリバリサービスが必要です。これにより、ビジネスの柔軟性が高まり、クラウド移行を成功に導くことができます。組織には、既存のアプリケーションから新しいクラウドネイティブアプリケーションまで、アプリケーション環境全体でアプリケーションサービスと関連ポリシーを一貫して提供、管理できる統合プラットフォームが必要です。

F5 BIG-IP Virtual Edition(VE)は、高速化、最適化、インテリジェントなトラフィック管理(ローカルおよびグローバル)から、DNS、高度なアプリケーションアクセス、ネットワークセキュリティまで、幅広いインテリジェントなアプリケーションサービスとネットワークサービスを提供します。これらのサービスは、アプリケーションスタックの一部として完全に統合し、自動的に構成できます。F5は、ハードウェアと仮想の両方のApplication Delivery Controller(ADC)市場をリードしており、これらのサービスはすでにお客さまのデータセンターに導入されている可能性があります。現在は、F5のクラウドライセンスプログラムを通じて、主要なクラウドプロバイダーからも利用できます。
F5 Security Services
BIG-IP VEは、制御性、柔軟性、可視性を損なうことなくクラウドアプリを保護する、インテリジェントで包括的なL3~7セキュリティサービスを提供します。これらのサービスは、各クラウドプロバイダーが提供する機能を補完し、あらゆるDDoS攻撃ベクトル、ゼロデイ脅威、多層的なWebアプリケーション攻撃、データの窃取や漏えいに対して多層防御を提供します。アプリケーションごとのファイアウォールルールとポリシーの調整および設定に費やした労力と蓄積した専門知識は、クラウドプロバイダー環境でも活用し、再利用できます。
ユーザー、デバイス、環境、アプリケーション、ネットワークのコンテキストを包括的に認識するIDおよびアクセス管理アーキテクチャにより、F5は、データセンターからクラウドにわたるアプリケーションアクセスのIDフェデレーションとシングルサインオンを実現します。同時に、コンテキストに基づく安全で差別化されたアクセス、Webベースのマルウェアや持続的脅威からの保護、包括的なエンドポイントデバイス検査によって、アプリケーションのセキュリティとデータの完全性を維持します。
ITインフラストラクチャ全体で一貫したセキュリティを確保し、継続的に保護することが、クラウド環境を守るうえで最も重要な要素です。

可用性とパフォーマンス
BIG-IPの高度なローカルトラフィック管理サービスは、単一障害点を排除する静的および動的な負荷分散、HTTP/TCP以外の幅広いプロトコル(HTTP2.0、SPDY、UDPなど)、アプリケーションへの高度な対応をサポートします。フルアプリケーションプロキシとして、BIG-IPプラットフォームは多重化のためのコンテンツスイッチングを可能にし、外部IPアドレスの数が限られている場合の影響を軽減します。また、グループ内のサーバーの動的なパフォーマンスレベルを追跡し、詳細なヘルスモニタリングと接続状態管理を提供します。
BIG-IPのアプリケーションデリバリー最適化サービスは、アプリケーションの応答時間を短縮し、レイテンシーや遅延を最小限に抑え、モバイルデバイスからのWebリクエストの完了に必要なデータのラウンドトリップ回数を削減できます。
DNSおよびグローバルサーバーロードバランシングサービスを備えたBIG-IPプラットフォームは、ユーザーとの距離、地理的位置、ネットワーク状況、アプリケーションの可用性を考慮し、最適なアプリケーションエクスペリエンスとDR/フェイルオーバーポリシーに基づいて、ユーザーを最寄りのクラウドデータセンターに誘導します。このプラットフォームでは、各アプリケーションとユーザーに応じた多様なグローバルロードバランシング方式とインテリジェントな監視を採用しています。さらにF5は、DNS DDoS保護を提供し、悪意のあるIPへのアクセスをブロックするとともに、DNSSECで応答を保護します。特に、DNSクエリとヘルスチェックは従量課金の対象になりません。DNS DDoS攻撃時に非常に高額になる可能性がある一部のクラウドプロバイダーの課金方式とは異なります。
F5で実現するクラウドのスケーラビリティ
クラウドバースティングなどを利用すると、企業は必要に応じてアプリケーションリソースを拡張し、一時的な需要急増時に使用したリソースの料金のみを支払うことができます。クラウドバースティングを効果的に実行するには、BIG-IPのローカルトラフィック管理、グローバルサーバーロードバランシングサービス、BIG-IQのクラウドオーケストレーションが必要です。これらが緊密に連携することで、エンドユーザーには意識されることなく、さまざまな処理が自動的に実行されます。
- 事前に設定したしきい値に達すると、クラウド上にリソースがプロビジョニングされ、デプロイされます。
- 新しいアプリケーションサーバーリソースは、リソースプールに自動的に追加されます。
- ユーザーはクラウド上のアプリケーションリソースにリダイレクトされます。
- アプリケーションの負荷が事前設定されたしきい値を下回ると、クラウドインフラストラクチャのリソースがプロビジョニング解除され、すべての接続がデータセンターにリダイレクトされます。

可視性、制御、一貫したポリシー
F5 iApps®テンプレートを使用すると、企業はアプリケーションのサポートに必要なアプリケーションデリバリサービスを数分で導入できます。iAppsテンプレートでは、アプリケーションごとに、トラフィック管理、暗号化、ファイアウォール、パフォーマンス最適化などのサービスの設定とポリシーを定義します。iAppsとインライン分析により、アプリケーションを完全に制御して可視化できるため、一貫性を確保し、トラブルシューティングを改善できます。
さらに、F5のトラフィックスクリプティングインターフェースであるF5 iRules®スクリプティング言語を使用すると、アプリケーショントラフィックをプログラムで分析、操作、検出できるため、カスタマイズが可能になり、ゼロデイ脅威、ネットワーク状況、ビジネス要件に迅速に対応できます。iAppsとiRulesは移植性に優れているため、同一または異なるクラウドプロバイダー間でアプリケーションを移動できます。
管理、自動化、オーケストレーション
パブリック環境とプライベート環境の管理ツールと接続性を統合することで、両環境をシームレスに利用できるようになります。データセンター環境を透過的に拡張し、管理のサイロ化を回避できます。
F5ソリューションは、クラウドプロバイダーに統合型の自動化されたアプリケーションデリバリ機能を提供し、アプリケーションネットワーキングサービスのプロビジョニングと導入にかかる時間を大幅に短縮します。これは、以下の方法で実現します。
- エンタープライズデータセンターとサードパーティ製クラウド管理ツールの統合。
- アプリケーションデリバリサービスのプロビジョニングの自動化
- 導入時間を短縮するオーケストレーション。
- REST APIによる拡張性と比類のない柔軟性。

BIG-IQ®は、F5のインテリジェントな管理およびオーケストレーションプラットフォームです。オープンでプログラム可能なフレームワークを提供し、プライベートクラウドとパブリッククラウドにわたる物理および仮想BIG-IPソリューションを管理できます。BIG-IQは、基盤となるインフラストラクチャにかかわらず、アプリケーションサービスとセキュリティサービスを迅速かつ一貫性と再現性のある方法で導入、管理できるよう組織を支援します。さらに、BIG-IQは、REST APIとクラウドコネクターを介して、主要なクラウドオーケストレーションエンジンやクラウドプロバイダーと統合または連携します。
BIG-IQはiAppsのライフサイクル管理機能を提供し、アプリケーションデリバリーサービスの迅速なプロビジョニングを簡素化、自動化します。IT部門は、カスタマイズされたサービスや多層型サービスを含む、利用可能なアプリケーションデリバリーサービスのカタログを定義できます。管理者やアプリケーションマネージャーは、必要に応じてこのカタログから迅速に選択できます。
柔軟なライセンスモデル
BIG-IP Virtual Editionは、Good-Better-Bestバンドルとして、ユーティリティ課金(時間単位、日単位、月単位)、年間サブスクリプション、Bring Your Own License(BYOL)、Volume Licensing Subscriptionの各モデルでご利用いただけます。テスト/開発用の本番稼働前ワークロードや、一時的なクラウドバースティングおよびスケーラビリティのユースケース向けに、F5は柔軟なオンデマンド利用が可能なユーティリティライセンスを提供しています(利用後に、利用した分だけお支払いいただきます)。
年間サブスクリプションは、トラフィックが安定している本番ワークロードに最適です。BYOLは、プライベートデータセンターで使用している既存のBIG-IP VEライセンスをパブリッククラウドへ直接移行したいハイブリッドクラウド環境に最適です。VLSは、大量の仮想アプリケーションサービスおよびセキュリティサービスを必要とする企業向けに設計されています。VLSでは、プレミアムサポートとソフトウェアアップデートを含む1年および3年のサブスクリプションを割引価格で提供します。

まとめ
ここ数年で、パブリッククラウドサービスの導入は飛躍的に拡大しています。多くのITスタートアップや一部の成熟したメディア企業では、システム全体をパブリックIaaSクラウドプロバイダー上に展開し、大きな成果を上げています。企業がより重要なアプリケーションのクラウド移行を計画する中、BIG-IPプラットフォームによるアプリケーションデリバリの実証済みのメリットは、クラウド上のアプリケーションワークロードにも容易に適用できます。これにより、あらゆるアプリケーションインフラストラクチャで一貫したセキュリティを確保することをはじめ、企業がパブリッククラウドを導入する際に直面する多くの課題や懸念に対処できます。
F5のクラウド移行ソリューションは、F5のBIG-IPアプリケーションサービスとBIG-IQ製品を活用し、場所を問わず、アプリケーションに不可欠な可用性、パフォーマンス、セキュリティを提供します。主要なクラウドマーケットプレイスで利用できる柔軟なライセンスモデルにより、企業はこれらのサービスのパブリッククラウドへの移行を計画し、段階的に準備して、導入できます。F5は、可視性、セキュリティ、制御を維持しながら、企業や組織がワークロードをシングルクラウド環境およびマルチクラウド環境へ安心して移行できるよう支援します。
公開日:2015年5月7日
