2026年版アプリケーション戦略の現状レポートから得られた知見
運用の現場では静かな変化が起きています。AIを意思決定支援ツールとして捉え続けていると、その変化を見落としかねません。
もはや助言するだけではありません。自ら行動しています。
F5のデータは、その移行が無視できないものであることを示しています。組織の67%は、すでにAIを活用して自動化の取り組みを加速しています。66%は、SLAとSLOを達成するために、AIがポリシーや構成を自動調整できるようにしています。また、59%は、人による対応の指針となる推奨事項の生成にAIを活用しています。自動化にAIをまったく使用していないと回答した組織は、わずか2%です。
この分布が示す事実は明確です。AIはもはや制御ループの外にあるのではなく、その中に組み込まれています。
AIが実行を担うのは、失敗しても安全な領域に限られる
一見すると、これらの数字は完全な自律運用が実現したことを示しているように見えます。しかし、実際にはまだそこまで至っていません。
実際に見られるのは、選択的な実行です。影響範囲が限定され、結果を測定できる場合、組織はAIに直接処理を実行させることを受け入れています。トラフィックシェーピング、パフォーマンスチューニング、コスト最適化などです。これらは、処理を迅速に観察・評価し、元に戻せる領域です。
これは偶然ではありません。明確な信頼境界を反映しています。
障害が許容可能で、復旧も容易な領域では、AIに迅速な対応が認められています。一方、コンプライアンス、セキュリティ態勢、またはビジネスクリティカルなポリシーに関わる領域では、同等の裁量は与えられていません。こうした領域では、AIに能力がないからではなく、リスク特性が根本的に異なるため、依然として人による監督が必要です。
実際には、「次のSRE」が機械になる可能性は十分にあります。ただし、それは制約なく意思決定を行う独立したオペレーターではなく、厳格なガードレールの下で動作する機械です。
これはコントロールプレーンの置き換えではなく、機能強化です
興味深いのは、これがこれまでに見てきたパターンと非常によく一致している点です。
オートスケーリングによって運用担当者が不要になったわけではありません。トラフィック管理によってポリシーの必要性がなくなったわけでも、ポリシーの自動化によってガバナンスが不要になったわけでもありません。いずれも、アーキテクチャレベルでの監督を維持しながら、責任の一部をシステムに移したのです。
AIも同じ道をたどっています。
企業は、運用上の権限を分割しています。高リスクな意思決定に対する統制を維持しながら、厳密に定義された領域に限ってAIに実行権限を付与しています。これは信頼の欠如ではなく、アーキテクチャ上の選択です。
AIはコントロールプレーンの上位に置かれるのではなく、その一部として組み込まれつつあります。
AIの価値は自律性ではなく、スピードとシグナル
組織がAIの役割をどのように捉えているかについて疑問が残っていたとしても、メリットに関するデータを見ればすぐに明らかになります。
GenAIに期待される成果の上位は、意思決定の迅速化が33%、適応学習による生産性向上が32%です。コスト削減、戦略的計画、コンプライアンスはいずれもこれらを下回っています。
この順位には意味があります。
企業が優先しているのは、自律性ではなく、スピードとシグナルの質です。より適切な意思決定を迅速に行い、ワークフローに直接組み込むことを求めています。これは、組織の59%がAIによる推奨事項を活用し、同程度の割合が限定的な自動アクションを許可しているという先述のデータと完全に一致します。
権限は段階的に付与されつつあります。まずは推奨事項の提示から始まり、次に制約付きの実行へと進みます。
制御は意図が生じる地点に集中する
これに、デリバリーチームとセキュリティチームが最も大きな効果を実感する領域を重ね合わせると、アーキテクチャがさらに明確になります。
プロンプトレイヤーは、デリバリーへの影響が29%、セキュリティへの影響が25%で最も高く、トークンレイヤーと制御レイヤーがいずれも23%で僅差で続きます。モデルルーティングと出力モデレーションも重要ですが、これらには及びません。
この集中は偶然ではありません。
意思決定の迅速化と生産性の向上を目指すなら、最も大きな効果が得られるのは、意図がシステムに入力される段階です。そこでプロンプトが作成され、コンテキストが組み立てられ、実行前に制約を適用できます。
企業は、制御を手放すことなく結果を方向付けられるため、推論の入り口を最適化しています。
これは、より広範な変化も裏付けています。モデルは、交換可能な実行エンジンとして扱われる傾向が強まっています。運用の観点では、インテリジェンスはスタックの上位層へと移行し、リクエストの形成、ルーティング、制約、監視を統制するデリバリーファブリックに組み込まれつつあります。
AIは運用主体になりつつありますが、所有主体ではありません
これらを総合すると、一貫したパターンが浮かび上がります。
AIは制御ループに組み込まれています。定められた範囲内に限って動作を任されます。評価されるのは、そのスピードとシグナルであり、制約のない自律性ではありません。AIは、アプリケーションデリバリとセキュリティを従来から支えてきたものと同じアーキテクチャ原則に基づいて管理されます。
これにより、AIは運用を担いますが、所有者になるわけではありません。
そして、まさにこの違いについて、業界ではまだ十分に議論されていません。難しいのは、もはやAIに意思決定の方法を教えることではありません。AIがどこで行動を許可され、いつ判断を委ねるべきか、また、その行動をどのように監視、制限し、元に戻すかを決定するシステムを設計することです。
これはAIの問題ではありません。エンタープライズアーキテクチャの問題です。
その点を認識している組織は、安全かつ効果的にAIを拡張できます。認識していない組織は、AIを過度に制約して役に立たないものにするか、過信してリスクを招くことになります。
いずれにせよ、結果は同じです。次世代のSREはチームに取って代わるものではないと、すでに理解しているシステムに後れを取ることになります。
チームに加わるのです。
詳細については、2026 State of Application Strategy Reportの全文をご覧ください。
著者について

Lori MacVittieは、F5のOffice of the CTOに所属するDistinguished Engineer兼Chief Evangelistであり、アプリケーションデリバリ、自動化戦略、インフラストラクチャに関する深い専門知識を有しています。AIエージェントのガードレール策定、脆弱なマルチクラウドアーキテクチャの分析、スケーラブルなシステムの限界の検証など、複雑な事柄を明快にすることで知られています。アプリケーション開発、ITアーキテクチャ、ネットワークおよびシステム運用の分野で、30年以上にわたる業界経験を有しています。F5入社前は、受賞歴のあるテクノロジー編集者として活躍していました。 MacVittieはコンピューターサイエンスの修士号を取得しており、セキュリティ、クラウド、エンタープライズアーキテクチャにわたる分野で多数の著作を発表しています。また、テーブルトークゲームとビデオゲームをこよなく愛し、チーズについては遠慮なく強いこだわりを語ります。
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