多くの方が一度は耳にしたり、目にしたりしたことがあるでしょう。マズローの欲求5段階説。この概念をご存じない方(またはおさらいしたい方)のために要約すると、マズローは、人は特定の欲求を満たすために動機づけられると考えました。そして、食事、睡眠、安全といった生存に関わる基本的な欲求から、自己実現のような、より個人的で成長に関わる欲求へと進む5段階の階層を定義しました。
つまり、この階層は、テクノロジーを含むさまざまな分野のニーズを説明するモデルとしてよく使われています。今回この話を取り上げることになったのも、そのためです。
今日のアプリケーションには、マズローの欲求階層を模した形で階層化できる、明確な一連のニーズがあります。マズローの欲求階層と同様に、下位のニーズは存続と成功に最も不可欠であり、上位のニーズは成長を可能にします。うまくできていますね。
これが重要なのは、現在の環境やユーザーの期待、場合によっては純粋に技術的な理由から、こうしたニーズの一部はアプリサービスなしでは現実的に満たせないためです。たとえば、負荷分散、フェイルオーバー、Webアプリケーションセキュリティ、SSO、高速化、最適化などが該当します……

確かに、クラッシュや障害が発生した場合に自動で再起動するアプリを作成することはできます。しかし、停止を引き起こすネットワークレベルの障害には対処できません。これに対処できるのは、負荷分散サービスやフェイルオーバーサービスなどの上流(外部)システムだけです。つまり、負荷分散のようなアプリケーションサービスを利用しない限り、アプリケーションの信頼性を確保することはできません。同様に、ほとんどのアプリケーションは、TCPの動作を制御するネットワークスタックを操作できません。一方、上流のプロキシ(負荷分散サービス)なら操作でき、モバイルアプリを実用的にするための最適化の多くはそこで実装されます。こうした最適化がなければ、アプリの動作や応答は遅くなり、最適化されたアプリよりも利用を中止される可能性が高まります。そのため、パフォーマンスはニーズ階層の中位に位置します。重要ではあるものの、アプリケーションにとって最も重要なニーズではないからです。そもそもアプリケーションが利用できなければ、どれほど最適化しても意味がありません。
それでは早速、アプリのニーズ階層を見ていきましょう。
1. 信頼性
信頼性とは、企業ユーザーと一般ユーザーのどちらも、アプリをいつでも利用できると信頼できることです。そのため、需要が急増した場合(スケーラビリティ)、障害が発生した場合(フェイルオーバー)、災害が発生した場合(災害復旧)でも、アプリを継続して利用できるようにする必要があります。基本となるのは負荷分散とフェイルオーバーのサービスですが、災害時にユーザーをリダイレクトするDNSなど、アプリを支えるサービスも含まれます。F5の「アプリケーションデリバリーの現状」調査で、可用性が「アプリケーションの導入に不可欠なアプリサービス」の首位を維持しているのも当然です。可用性は、アプリの存続に欠かせない基本要件であるだけでなく、今やビジネスの存続にも欠かせない要件です。
2. セキュリティ
セキュリティ。これがなければ、アプリは多種多様な攻撃に対して脆弱になります。攻撃のすべてが、コードの品質に起因するわけではありません。アプリケーションセキュリティは、アプリだけでなく、その基盤となるプラットフォームも含む多層構造です。各種レポートでは、攻撃者がこの階層を上へとたどり、アプリケーション層を狙う傾向が続いていることが示されています。その目的は、データを盗むための流出(exfiltration)と、ビジネスを停止させるための悪用(exploitation)の両方です。そのため、アプリケーションの可用性と健全性を維持するには、DDoS対策、Webアプリケーションセキュリティ、不正防止、暗号化サービスなど、さまざまなセキュリティアプリサービスが必要です。組織が攻撃を受ける頻度が高まり、新たな脆弱性の報告も増える中、今日のアプリとビジネスの存続に欠かせない中核的なアプリサービスの1つとして、セキュリティの必要性はますます高まっています。
3. パフォーマンス
パフォーマンス。その重要性は誰もが認識しています。特に、モバイルデバイスからモバイルネットワーク経由で利用されることの多いアプリでは、なおさらです。アプリサービスの階層において、パフォーマンスに関するアプリサービスは、基本的なニーズへの対応から成長への対応へと移行する段階に位置します。実際、パフォーマンスに関する課題は、その両方に関係します。アプリの動作が遅すぎたり、応答しなかったりすると、企業ユーザーの生産性に悪影響を及ぼすだけでなく、消費者から得られる収益が減少する可能性もあります。アプリが利用できない場合や侵害を受けた場合ほど事業への影響は大きくありませんが、それでも重要です。そのため、多くの組織が、画像の最適化、圧縮、SSLオフロード、TCP多重化などの手法を用いて、アプリケーションのパフォーマンスを向上させています。問題はコードではなく、ネットワーク、ユーザーのデバイス、アプリケーションが通信に使用するプロトコルに関する課題への対応にある場合もあるためです。
4. プログラマビリティ
今日、アプリはビジネスそのものであり、迅速なデリバリーだけでなく、迅速なデプロイも求められます。ビジネスを成長させ、拡張するには、基盤となるニーズ(信頼性、セキュリティ、パフォーマンス)を支えるアプリサービスも迅速にデプロイできなければなりません。その鍵となるのがプログラマビリティです。具体的には、APIとテンプレートを活用し、開発から運用、さらに幅広いIT領域へとCI/CDパイプラインを推進するAPIエコノミーと統合して、そこから利用できるようにすることです。プログラマビリティにより、ネットワーク(SDN)、クラウド(OpenStack)、データセンター全体(SDDC)のいずれを対象とする場合でも、アプリサービスをDevOpsエコシステムに組み込めます。テンプレートは標準化(一貫性)と再現性をもたらし、最新のデータセンターにおけるデプロイプロセスの改善に必要な基盤となります。APIは柔軟性を確保するとともに、構成と管理の自動化に使用される多様なフレームワークやツールセットをサポートし、ネットワークが障壁となってアプリが取り残されることを防ぎます。
5. アーキテクチャの俊敏性
最後に、今日のアプリケーション、ひいてはビジネスの成長を支えるには、アプリケーションにアーキテクチャの俊敏性が必要です。つまり、アプリケーションを支援し、その機能を実現し、保護するアプリケーションサービスは、アプリケーションが採用するアーキテクチャ(マイクロサービス、コンテナ、仮想化、クラウドなど)に対応していなければなりません。階層の下位にあるニーズを支えるアプリケーションサービスは、アプリケーションの展開先を問わず、アプリケーションとともに展開できる必要があります。そのためには、仮想、物理、クラウドベースのアプリケーションサービスへの対応が必要です。
著者について

Lori MacVittieは、F5のOffice of the CTOに所属するDistinguished Engineer兼Chief Evangelistであり、アプリケーションデリバリ、自動化戦略、インフラストラクチャに関する深い専門知識を有しています。AIエージェントのガードレール策定、脆弱なマルチクラウドアーキテクチャの分析、スケーラブルなシステムの限界の検証など、複雑な事柄を明快にすることで知られています。アプリケーション開発、ITアーキテクチャ、ネットワークおよびシステム運用の分野で、30年以上にわたる業界経験を有しています。F5入社前は、受賞歴のあるテクノロジー編集者として活躍していました。 MacVittieはコンピューターサイエンスの修士号を取得しており、セキュリティ、クラウド、エンタープライズアーキテクチャにわたる分野で多数の著作を発表しています。また、テーブルトークゲームとビデオゲームをこよなく愛し、チーズについては遠慮なく強いこだわりを語ります。
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