「CXで重要なのは、稼働時間ではありません」
– Julia Renouard、F5 Office of the CTO、VP Engineering
エクスペリエンス。英語の多くの単語と同様に、experienceという言葉は、文脈によって意味が異なります。たとえば、私にはソフトウェア開発の経験があります。これは、コードを書いてアプリを作成したことがある、という意味です。
しかし、指を骨折したり、住宅ローンを組んだり、泳いだり、ほかの開発者が作成したソフトウェアを使用したりした経験もあります。こうした経験が必ずしも専門知識や技能につながるわけではありません。単にその活動をしたことがあり、同じ経験をした人の気持ちが分かるというだけです。また、それらの経験について、良かった点も悪かった点も含めて感想を共有できます。
テクノロジー企業が「エクスペリエンス」という言葉を使う場合、一般にはユーザーがその製品やサービスをどのように利用するかを指します。しかし、そのエクスペリエンスの評価が「きちんと動作したか?」だけに終始することも少なくありません。
例えば、私はビデオゲームが好きなので、ヘッドフォンが欠かせません。これまでにいくつも使ってきましたが、そのほとんどは明らかに眼鏡をかける人向けに設計されていませんでした。大半は装着感が悪く、使用時の「体験」も快適とは言えませんでした。ところが、眼鏡をかける人に配慮したヘッドフォンを設計する企業を見つけたことで、体験は格段に向上し、そのブランドへの愛着が生まれ、人にも勧めたいと思うようになりました。
どの製品も問題なく動作し、稼働率は100%でした。しかし、あるブランドだけは、稼働率にとどまらず、製品を長時間装着する際の体験を重視していたため、他よりも際立っていました。言うまでもなく、私は生涯顧客です。また購入したいと思います。星5つです。
デジタルトランスフォーメーションを進めるうえで、あらゆる企業がこのようにカスタマー エクスペリエンスを重視する必要があります。アプリやデバイスは、正しく動作することだけを目標にすべきではありません。
デジタルが当たり前となった今日、ほぼ常時稼働していることは当然と考えるべきです。アプリやデバイスが利用できるかどうかではなく、そこでどのような「体験」が得られるかを問うべきです。
従来の稼働時間の指標を基準にカスタマーエクスペリエンスを考えることは、効果的な戦略とはいえません。常時利用できるアプリは数多くありますが、その多くが削除されてしまう原因は、過剰な広告や通知ではなく、単に「わかりにくい」からです。アプリが利用可能であっても、ナビゲーションの選択肢がわかりにくかったり、複雑なプロセスの案内が不明確だったりすれば、エクスペリエンスは低下します。大きなディスプレイと同じようにモバイルでもアプリのインターフェースを使いやすくしなければ、エクスペリエンスは低下します。サービスと製品の一貫性を維持できなければ、エクスペリエンスは低下します。
また、アプリへのアクセスが主にマシン、スクリプト、その他のサービスから行われるからといって、エクスペリエンスは重要ではないと考えるべきではありません。そこには依然として人が関わっています。つまり、アプリをそのAPIと連携させる仕組みを構築する開発者です。ドキュメントが不十分なAPIや一貫性のないAPIは、開発者に不満を抱かせ、取り組みの断念につながる可能性もあるため、開発者のエクスペリエンスも重要です。APIの稼働はエクスペリエンスの終着点ではなく、出発点にすぎません。
APIやサービスを提供する場合でも、製品を届ける場合でも、プロセスを通じてガイダンスを提供する場合でも、その提供内容を体験するのは人間です。「体験」の定義の1つは、人間の反応に基づいています。
(名詞)誰かに印象を残す出来事
おそらく、だからこそアップタイムに注目しやすいのでしょう。アップタイムは測定し、追跡できるからです。印象は人間の反応であり、標準で得られるデジタルシグナルはありません。人間的要因を理解するには、能動的に取り組む必要があります。幸い、印象が良いか悪いかを把握するのに役立つデジタルシグナルは存在します。
エンゲージメント時間、日次および月次のアクティビティ率、プロセスの完了率などの指標から、全体的な傾向を把握できます。たとえば、複雑なオンボーディングや登録手続きは、ユーザーがアプリを削除する主な理由の1つです。計測機能を組み込むことで、そのプロセスに関する知見を得て、ユーザーが不満を感じる要因を明らかにできます。大半のユーザーがステップ2でプロセスを中断している場合は、そのステップを調査し、何が妨げになっているのかを特定する必要があります。
ユーザーがテクノロジーをどのように利用しているかを理解するには、計測が不可欠です。これは、一般消費者向けのユーザーインターフェースだけでなく、開発者やエンジニア向けのインターフェースやAPIにも当てはまります。インターフェースを計測することで、デザイナーや開発者は、好印象を与えるために必要なインサイトを得られます。
こうした機能は絶えず進化しており、「デジタルアナリティクス」を活用することで、ユーザーがアプリやデバイスをどのように操作しているかを、さらに深く理解できます。
「デジタル、モバイル、ソーシャルメディア、そして高度化が進む今日のオンラインコマース環境の優れた点は、CX戦略担当者やマーケティング担当者、ブランドが、顧客の行動と反応を正確に把握できることです。微細な手がかりや『デジタルボディランゲージ』(マウスの動き、クリック、タップ、ホバー、スクロール)を分析することで、今日のブランドは顧客の感情や心理を真に理解し始めることができます」
— Forbes
デジタルボディランゲージは、ボットなどの脅威の検知やリスク評価によく利用されていますが、こうしたシグナルの可能性を探り、アプリやデバイスとのエンゲージメントに活用する取り組みは、まだ始まったばかりです。
今年の「State of Application Strategy」調査を詳しく見ていくと、あらゆる業界で、カスタマーエクスペリエンスが引き続きデジタルトランスフォーメーションの取り組みにおける重要な焦点となっていることがわかります。これは驚くことではありません。デジタルが当たり前となった世界では、企業が顧客と接する際、初回からその後のほぼすべての機会において、テクノロジーが人によるカスタマーサービスに代わる標準的な手段となりつつあります。
CXは、開発ライフサイクルにおいてますます重要な要素となっています。CXは、人に良い印象を与えることに重点を置く分野です。つまり、単なる稼働時間の指標ではなく、人を第一に考えるテクノロジーへのアプローチです。
著者について

Lori MacVittieは、F5のOffice of the CTOに所属するDistinguished Engineer兼Chief Evangelistであり、アプリケーションデリバリ、自動化戦略、インフラストラクチャに関する深い専門知識を有しています。AIエージェントのガードレール策定、脆弱なマルチクラウドアーキテクチャの分析、スケーラブルなシステムの限界の検証など、複雑な事柄を明快にすることで知られています。アプリケーション開発、ITアーキテクチャ、ネットワークおよびシステム運用の分野で、30年以上にわたる業界経験を有しています。F5入社前は、受賞歴のあるテクノロジー編集者として活躍していました。 MacVittieはコンピューターサイエンスの修士号を取得しており、セキュリティ、クラウド、エンタープライズアーキテクチャにわたる分野で多数の著作を発表しています。また、テーブルトークゲームとビデオゲームをこよなく愛し、チーズについては遠慮なく強いこだわりを語ります。
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