量子 コンピューティングの時代が目前に迫り、データ、通信、インフラストラクチャを保護する暗号システムは大きな転換を迎えようとしています。準備を始めるなら今です。ポスト量子暗号(PQC)を取り上げる全6回の本ブログシリーズでは、F5の暗号技術分野のオピニオンリーダーが、どのようなリスクがあるのか、どのような機会が待っているのか、そしてポスト量子時代にもセキュリティを維持するために組織が今から講じられる対策について解説します。未来は思っている以上に間近に迫っています。共に準備を進めましょう。
2015年、米国国家安全保障局(NSA)は、「Suite B楕円曲線アルゴリズムへの移行をまだ完了していないパートナーおよびベンダーには、現時点では移行に多額の費用を投じず、代わりに今後の耐量子アルゴリズムへの移行に備えることを推奨します」と表明しました。これにより、広く導入されていたRivest–Shamir–Adleman(RSA)暗号システムから楕円曲線暗号(ECC)への業界の移行に支障が生じました。
それ以来、RSAとECCを破ることのできる量子コンピューターが正確にいつ利用可能になるのかについて、多くの予測がなされてきましたが、率直に言えば、その多くは憶測です。中には、広く導入されている暗号技術が2026年までに破られる確率は7分の1、2031年までに役に立たなくなる確率は50%だという主張もあります。
さらに最近では、Microsoftの最高経営責任者であるSatya Nadella氏が、100万量子ビットのプロセッサは実現可能な段階にあると述べています。Microsoftに加え、IBM、Google、AWSなどのハイパースケーラーは量子研究の最前線に立ち、それぞれのクラウドプラットフォームでサンドボックスを公開しています。F5 Labsは、2025年のサイバーセキュリティ予測の記事で、暗号を直接解読できる量子コンピューティングの実現が差し迫っていなくても、2025年には従来の暗号技術を破るためにAIが利用されるようになると指摘しています。

Post-quantum cryptographyは、あらゆる業界と地域に影響を及ぼします。
予測曲線を描くのは得意ではない
「Q-Day」は目前に迫っています。正確な時期は明らかではありません。セキュリティ業界が予測を行うのは今回が初めてではありませんが、オピニオンリーダーや規制当局が先手を打とうとしている注目すべき事例です。
2000年、Salesforceは一般公開された初のAPIをリリースしました。2019年には、Open Worldwide Application Security Project(OWASP)が初のAPIセキュリティプロジェクトを公開しました。汎用人工知能(AGI)が実現する時期については、2040年から2070年の間とする複数の予測が示されてきました。しかし、生成AIの急速な台頭と量子コンピューティングの進歩により、これらの予測どおりになるかどうかには大きな疑問が生じています。実現時期は大幅に早まる可能性があります。
このシリーズの最初のブログで述べたように、「今収集し、後で復号する」という脅威は現実のものであり、米国国立標準技術研究所(NIST)はすでに耐量子計算機暗号アルゴリズムに関するガイダンスを公開しています。

Q-Dayは、Webアプリ、API、相互接続されたAIエコシステムなど、セキュリティのあらゆる領域に影響を及ぼします。
では、業界別に見るとどうでしょうか?
量子コンピューティングにより、攻撃者は電力網、金融ネットワーク、政府システム、通信ネットワークをより効果的に標的にできるようになります。医療やeコマースを含む多くの業界では、コンプライアンス要件により、堅牢な暗号技術の導入などを通じて、機密性の高い顧客情報を保護することが求められています。
これらの分野の最大規模の組織では、耐量子暗号(PQC)に対応するために改修が必要となる資産が3,000万件を超えます。現代の暗号を解読できる量子コンピューターが登場すれば、あらゆる企業がリスクにさらされます。特に、知的財産、医療記録、金融取引、国家安全保障関連情報を扱う企業は大きな影響を受けます。
F5 Labs の調査によると、上位100万のWebサイトの大半はTLS 1.3を優先しており、PQCに対応できる可能性がありますが、人気度の低いサイトでは対応率が急激に低下します。SafariはまだPQCに対応していないため、クライアント側の準備状況の分析結果に大きな偏りが生じます。その影響はWebトラフィックにとどまりませんが、これは業界の準備状況を示す重要な指標です。
各業界ではPQCへの移行が進んでいるものの、依然として対応が遅れています。
実際には、各業界で最も迅速に対応している組織でさえ、PQC対応はまだ緒に就いたばかりであり、オンライン世界全体が極めて脆弱な状況に置かれています。特に、重要インフラの大部分を担い、最も機密性の高いデータを扱うと考えられる金融機関、医療機関、通信事業者、政府機関では、PQCに対応したサイトの割合が低い状況です。
銀行業界におけるPQCの導入率は驚くほど低く、特定された145行のうち、耐量子暗号をサポートしているのはわずか4行(2.9%)です。分析対象となった上位100万サイトのうち、PQCをサポートしている医療関連サイトは約8.5%、政府関連サイトは7.1%です。
テクノロジー分野では状況がやや良く、約12%のサイトがPQCに対応しています。小規模な組織ほどWebホスティングやSaaSプラットフォームを採用する傾向があり、PQC対応を含む、そのプラットフォームのすべてのセキュリティ制御を利用できます。
認識が鍵となります(「鍵」はしゃれではありません……)
APIの急増と生成AIの台頭がセキュリティ関連のニュースを席巻していますが、PQCへの対応準備は取締役会で取り上げるべき課題です。変化する地政学的情勢の中で、部門ごとに分断されたリスク管理を行えば、失敗を招きかねません。PQCはセキュリティ部門だけが主導する取り組みではないため、経営層が的確にリーダーシップを発揮する必要があります。アプリケーション、インフラストラクチャ、セキュリティ、リスクの各チームには、PQCの概念と移行戦略に関する教育とトレーニングが必要です。主要なステークホルダーと研究者は、ベストプラクティスやテストラボを活用しながら、PQCの標準、攻撃、パフォーマンス向上に関する最新動向を継続的に把握する必要があります。
業界は極めて重要な役割を担い、大学やベンダーと連携する必要があります。たとえば、一元化されたインフラストラクチャ、内部認証局、ベンダーとの緊密な関係を持つサービスプロバイダーは、サイズの大きいPQC鍵と署名によるオーバーヘッドを管理するうえで有利な立場にあります。こうしたネットワークは、新たなPQCアルゴリズムを迅速に導入でき、対応が遅れている組織にとっての試金石となります。
準備態勢と俊敏性のバランス
インベントリの把握は極めて重要であり、リスクを評価して優先順位を付けるには、手動と自動の両方のアプローチが必要です。財務、評判、顧客データに関わるテクノロジー要素が、重点的に取り組むべき領域となります。
PQCでは、適切なガバナンス、新しいアルゴリズムの評価、ベンダー評価、規制フレームワークへの準拠、セキュリティプログラムの準備態勢を確保するため、継続的なメンテナンスが必要です。

F5 Application Delivery and Security Platform (ADSP)はPQCに対応する準備が整っています。
従来型アルゴリズムと耐量子アルゴリズムを組み合わせたハイブリッド暗号スイートは、従来型コンピューターと量子コンピューターの両方を用いる攻撃者に対するセキュリティを提供します。CDN、SaaS、またはアプリケーションデリバリーコントローラー(ADC)プラットフォームを介してアプリケーションを配信、保護し、暗号と標準を最新の状態に維持している組織は、Q-Dayに向けて十分な態勢を整えられます。それ以外の組織は、リスクにさらされている範囲を速やかに特定し、それに応じて準備方針を調整する必要があります。
PQCの導入は、単純な二者択一ではありません。技術、パフォーマンス、相互運用性、および各業界とそれに関連するユースケースの要件に基づいて、段階的に移行していくものです。
コンバージドプラットフォームは、堅牢なPQCサポートと強力なXOps機能により、あらゆる環境でアプリ、API、AIワークロードを安全に提供するとともに、AI、自動化、分析、プログラマビリティを活用して運用負荷を軽減することが期待されています。
詳しくは、F5のPQC対応準備ソリューションをご覧ください。
また、次回のブログ記事では、PQCの標準と導入スケジュールについて解説します。ぜひご期待ください。
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