私は哲学が好きです。学位取得まであと3科目ほどなのですが、数年おきに、いつか修了しようと自分に言い聞かせています。その哲学好きを受け継いだ長男は、コンピューターサイエンスとデータサイエンスの学位に加えて、哲学の学位も実際に取得しました。お察しのとおり、私たちのメッセージのやり取りはなかなか興味深いものです。
そのため、統計学や論理学でいう「前後即因果の誤謬」についてはよく知っています。「相関関係は因果関係を意味しない」という言葉の由来となった考え方です。これは、事象Xの後に事象Yが起きたからといって、事象Yは事象Xによって引き起こされたに違いないと考える論理的な誤りです。この誤謬を指摘した最も有名な例はBobby Hendersonによるもので、相関関係から因果関係を推定することの不合理さを、世界の海賊の減少が地球温暖化を引き起こしたことを示すグラフで説明しました。
確かに、それは筋が通りません。しかし、因果関係の根拠とされるグラフの多くも同様です。2つのデータポイントを対応させて示したからといって、一方が他方の原因であるとは限りません。多くの場合、その2つを関連付けること自体、論理的に意味をなしません。そもそも、海賊と地球温暖化に関係があるなど、誰も本気では受け止めないでしょう。
しかし、SRE運用とクラウド回帰の関係を掘り下げるうえで、これは重要なポイントです。
誤解のないように言うと、SREプラクティスの導入がクラウド回帰を引き起こすと主張しているわけではありません。しかし、この2つには密接かつ重要な関係があると考えています。クラウドプロバイダーであるGoogleがSREというプラクティスを生み出したのは偶然ではありません。SREに関連するモデル、マインドセット、スキルセットは、クラウドインフラストラクチャとサービスを適切に運用するうえで不可欠です。
クラウド回帰は現実に起きている
パブリッククラウドからの回帰は、一部ではややタブー視されている話題です。Andreessen Horowitzが「クラウドのコスト、1兆ドルのパラドックス」を発表し、企業がクラウドから回帰することで大幅なコスト削減を実現していると指摘した際に巻き起こった論争を考えてみてください。こうした動きは起きていないと主張する人もいますが、実際に起きていることを示すデータや事例は十分にあります。
2021年のレポートでは、パブリッククラウドからの回帰について市場調査を実施しました。アプリを回帰させた企業はわずか13%で、さらに14%が回帰を計画していました。その1年後、両者の合計は40ポイント増加し、それぞれ37%と30%になりました。これは特異な結果ではなく、複数の信頼できる調査会社も同様の結果を報告しています。興味深いことに、回帰率は世界で一様ではありません。APCJとLATAMでは、EMEAやNAと比べて回帰する可能性が大幅に低くなっています。
企業がパブリッククラウドからアプリを実際に回帰させていることは間違いありません。問うべきは「回帰させているのか」ではなく、「どれだけのワークロードを引き上げ、どこへ移行しているのか」です。この問いについては、来年、State of Application Strategy 2023の調査完了時に明らかにしたいと考えています。
現時点では、アプリの回帰を実現する要因となり得るSRE運用について掘り下げています。クラウドコストの上昇が回帰を検討するきっかけになったとしても、移行先で同等に効率よく運用し、コスト削減のメリットを得るためのスキルがなければ、回帰する理由はないからです。
そして、企業がワークロードを別のパブリッククラウド、オンプレミス、エッジのいずれに移行する場合でも、レパトリエーションを実現し、その判断を正当化するために必要な効率性とコスト削減効果を維持できるのは、SREの運用プラクティスとスキルによるものだと考えています。
データを詳しく見る
表面的には、SREプラクティスの導入・適用とクラウドからの回帰には強い相関関係があります。これは、SREプラクティスを導入し、クラウドのような方法で運用できる組織が、実質的に自社の「おもちゃ」(アプリ)を持って自宅(オンプレミスなど)に戻るのは、それが可能だからであることを示しているように見えます。

別の角度から見ると、SREプラクティスを導入していない組織のうち、アプリをパブリッククラウドからオンプレミス環境に戻した組織はわずか4%です。一方、SREプラクティスを導入している組織では、実に73%がアプリをパブリッククラウドから戻しています。
もちろん、プラクティスを採用していても、必ずしもそれを実践しているとは限りません。そこで、組織がアプリケーション、システム、インフラストラクチャを実際にどのように運用しているかを調査しました。具体的には、運用全体のうちSREプラクティスを使用している割合を確認しました。予想どおり、同様の結果が得られました。

アプリ、システム、インフラストラクチャの運用にSREプラクティスをまったく採用していない組織のうち、81%はクラウドからの回帰を行っていません。一方、アプリ、システム、インフラストラクチャの運用の76%~99%にSREプラクティスを採用している組織では、54%がクラウドから回帰しています。クラウドからの回帰が加速し始めると見られるのは、SREプラクティスを採用して運用するアプリ、システム、インフラストラクチャの割合が4分の1(25%)を超えた時点です。
APCJとLATAMでは、レパトリエーションを行う可能性がはるかに低いと述べたことを覚えていますか?これらの地域では、アプリ、システム、インフラストラクチャの運用にSREプラクティスを活用する可能性もはるかに低くなっています。実際、LATAMでは4分の1を超える26%、APCJでは29%が、SREプラクティスを使用して運用しているアプリ、システム、インフラストラクチャの割合を0%と回答しています。EMEAではわずか5%、NAではさらに低い2%です。
意味のある関係か、それとも興味深い偶然か?
SREを運用プラクティスとして採用している組織と、パブリッククラウドからの回帰率との間には、明らかな相関関係があるように見えます。しかし、これは意味のある関係なのでしょうか。それとも、単なる興味深い偶然の一致なのでしょうか。
これは私のブログですから、両者には意味のある関係があると主張したいと思います。
SREに関連するプラクティスとスキルセットは、クラウド環境を大規模に運用するうえでまさに最適です。以前にも述べたとおり、GoogleがSREを生み出し、文字どおりその解説書を著したのは偶然ではありません。また、これまでも述べてきましたが、改めて強調します。クラウドの価値は、その運用モデルにあります。このモデルにより、HTTP通信とカスタマーセッションのどちらを基準に測定する場合でも、トランザクション当たりのコストを大幅に削減できます。その結果、アプリケーションやデジタルサービスをコスト効率よく拡張できます。
自動化を活用し、サービスに影響しない事象ではなく重要なインシデントに重点を置くプラクティスを採用することで、高い可用性とパフォーマンスの維持を担う人員(ひいてはその専門知識)をコスト効率よく拡張できます。
SREプラクティスの導入と活用により、組織はパブリッククラウド、オンプレミス、エッジのいずれにおいても、運用を効率的に拡張できます。データからは、組織がまさにそのためにこの能力を活用していることがうかがえます。
デジタルビジネスを支えるためのアーキテクチャのモダナイゼーションとSRE運用の導入について詳しくは、F5の新しいO’Reilly書籍『デジタルビジネスのためのエンタープライズアーキテクチャ』をご覧ください。
著者について

Lori MacVittieは、F5のOffice of the CTOに所属するDistinguished Engineer兼Chief Evangelistであり、アプリケーションデリバリ、自動化戦略、インフラストラクチャに関する深い専門知識を有しています。AIエージェントのガードレール策定、脆弱なマルチクラウドアーキテクチャの分析、スケーラブルなシステムの限界の検証など、複雑な事柄を明快にすることで知られています。アプリケーション開発、ITアーキテクチャ、ネットワークおよびシステム運用の分野で、30年以上にわたる業界経験を有しています。F5入社前は、受賞歴のあるテクノロジー編集者として活躍していました。 MacVittieはコンピューターサイエンスの修士号を取得しており、セキュリティ、クラウド、エンタープライズアーキテクチャにわたる分野で多数の著作を発表しています。また、テーブルトークゲームとビデオゲームをこよなく愛し、チーズについては遠慮なく強いこだわりを語ります。
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