無意識のバイアスを乗り越える――Valerie Alexander氏へのQ&A

F5で働く | 2020年8月14日

職場における多様性とその認識をさらに高める継続的な取り組みの一環として、EMEAのF5 Connects Women Employee Inclusion Group(EIG)は先ごろ、無意識の偏見に関する研修セッションを開催しました。

職場における不平等は、特にテクノロジー業界でかつてないほど顕著になっています。そこで、当日の講師である起業家、作家、TED登壇経験者のValerie Alexander氏にインタビューし、その歩みと知見をより幅広いコミュニティと共有することにしました。

どのようなキャリアを歩み、無意識の偏見の専門家になられたのでしょうか?

私はシリコンバレーでIPOを専門とする弁護士としてキャリアをスタートし、最初のインターネットブームのさなかに企業の株式公開を手がけていました。そこから多くの機会が広がり、ほどなく法律の世界からベンチャーキャピタルのコンサルティングや投資銀行業務へと転身しました。その後はしばらく、インターネット企業の経営幹部を務めました。

母が脳腫瘍を患ったとき(ちなみに、今も健在です)、私はシリコンバレーを離れました。家と車を売り、母を1年間介護するために引っ越しました。

その間にシリコンバレーのバブルが崩壊し、自分が人生で本当にやりたいのは映画を作ることだと気づきました。そこでロサンゼルスに移り、脚本を書き始めました。

私が初めて企画を売り込んだのは、ジョエル・シュマッカーの自宅のリビングでした。彼が監督する予定だった、ある本の映画化企画です。彼のおかげでハリウッドでのキャリアをスタートできましたが、残念ながら、その映画が製作されることはありませんでした。2つ目の脚本の仕事は、キャサリン・ゼタ=ジョーンズのために舞台作品を映画化するというものでしたが、これも映画にはなりませんでした。その後、アイス・キューブのためにテレビシリーズを企画しましたが、またしても製作には至りませんでした。脚本家という仕事の興味深いところは、作品が一度も製作されなくても、大きな成功を収め、十分な収入を得られるキャリアを築けることです。私にとっては、それが少しもどかしく感じられました。

その後、脚本家を代表する労働組合である全米脚本家組合がストライキに入りました。多くの脚本家がその打撃から立ち直れず、私もその一人でした。そこで、『Happiness as a Second Language』という本を書き始め、続いて『Success as a Second Language』を執筆しました。その後、セルフヘルプと自己成長の分野で「…as a Second Language」というフレーズを商標登録し、出版社を設立しました。現在、その出版社では、このシリーズに属するほかの著者の本も出版しています。

人気を博した TEDトークはどのような経緯で実現したのですか?

最初の本を執筆していたとき、女性がハリウッドで成功する方法について講演してほしいと依頼されました。当時、私は脳科学を集中的に学んでおり、幸福をテーマにしたその本も、実質的には認知トレーニングについて書いたものでした。そこで研究を徹底的に掘り下げ、その後も探究を続けました。

2016年、私は人間関係における幸福感を高めるコミュニケーションプラットフォームを開発するテクノロジー企業を立ち上げ、多くのフォーラムで講演していました。そんな折、カリフォルニア州パサデナのTEDx運営団体から声がかかりました。しかし、男女の脳の違いと、それが職場で誰が評価されるかにどう影響するかという従来の講演内容を単にアレンジするのではなく、テクノロジー企業のCEOとして得た学びを盛り込むことにしました。女性CEOである私が、より「典型的な」テクノロジー企業のCEOとは大きく異なる扱いを受けていた背景には、どのような脳の働きがあるのでしょうか。このTEDトークは大きな注目を集め、無意識の偏見について引き続き講演し、議論をさらに広げてほしいという依頼が突如として殺到しました。

無意識のバイアスがあるとき、脳がどのように反応するのか教えてください。

人間の脳は、種の存続を目的として設計されています。その機能はただ1つ、私たちを生かし続けることです。

扁桃体は「闘争・逃走反応」を引き起こすため、生命を維持するうえで脳内で最も大きな役割を担う部位です。脳は、何が脅威で何が脅威でないかを判断することで、多くの近道を作り出します。そして、何を脅威と捉えるかは、どのように育ったか、誰と接したことがあるか(あるいはないか)、近隣にどのような人が住んでいるか、メディアが発信するイメージ、どの報道機関を選ぶかなど、非常に多くの要因に基づいています。

私たちは、自分が「脅威」だと思うものに対して、必ず本能的に反応します。なかでも最も極端なのが闘争・逃走反応で、このとき体内にはアドレナリンが一気に放出されます。その一段階手前にあるのが、自分にとって「普通」ではないものを認識したときの反応です。それは単に、自分の予想と異なっているだけです。扁桃体は視床下部を刺激して視床下部・下垂体軸を活性化させ、副腎に働きかけてコルチゾールを血中に放出させます。コルチゾールはストレスホルモンであり、心拍を少し速め、軽い発汗を引き起こします。扁桃体が反応していても、私たちはそれに気づかないことが少なくありません。ただ、いつもより少しストレスを感じ、くつろげず、落ち着かず、居心地が悪いと感じるだけです。

たとえば、ある職種の採用面接を行っていて、その職種をこれまで担当してきたのが白人男性だけだったとします。そこへ白人男性ではない人が入ってきたら、その変化を喜ばしく思うかもしれません。しかし、それが予想外であるため、脳はやはり適応しなければなりません。この適応の必要性が、無意識のバイアスです。

700万年にわたる進化によって、人間の脳は脅威に対して一定の反応を示すようになりました。この事実は変えられません。だからこそ、変えるべきなのは「何を予想するか」です。扉を開けて入ってくるのはどのような人なのか、という思い込みを変える必要があります。そうした「規範」や「普通」に対する認識を変えることができれば、世界を変えることができます。

テクノロジー業界では、無意識の偏見はどの程度広がっているのでしょうか?

無意識の偏見は、この業界における大きな問題です。テクノロジー業界では、応募者がその職務で一般的に想定される人物像に合っているように見えると、必要な能力やスキルを備えているとみなされがちです。そのため面接では、「ここで働きたいですか」「私たちとうまくやっていけそうですか」「どのようなアイデアを持っていますか」といったことが話題になりやすくなります。

そのように見えない人の場合、まずその仕事をこなせるかどうかを見極めることが優先されがちです。能力があると見なされるのではなく、その能力を厳しく問われることになります。これは、はるかに不利な出発点です。女性や有色人種は、自らの能力、スキル、知性、そして価値を絶えず証明しなければなりません。それは疲弊を招くものであり、無条件に認められることはありません。

これまでその役職に就いていた人たちとは違うという理由で、その人は失敗するだろうと思っていると、実際に何かミスをしたとき、それが「この人にはこの仕事はできない」という確信に変わります。一方、その人が成功すると期待していたのにうまくいっていない場合は、より多くのリソースを提供し、成功できるようさらに支援します。

テクノロジーには多くの失敗が伴い、また、それが必要です。トーマス・エジソンの言葉を借りれば、「私は失敗したことはない。ただ、うまくいかない方法を10,000通り見つけただけだ」。テクノロジーにはそれだけの試行錯誤が必要ですが、残念ながら、今なお白人男性のほうが10,000回挑戦する機会を得られる可能性がはるかに高いのです。

無意識の偏見は、こうしたところから生まれます。根深い思い込みや、失敗を大目に見てもらえること、確証バイアスがその要因です。女性や有色人種は、はるかに厳しい目で見られがちです。残念ながら、これはテクノロジー業界に限らず、あらゆる場所で起きています。

無意識の偏見の存在を認識し、実質的な対策に取り組もうとする組織にとって、基本となることは何でしょうか?

無意識の偏見をなくすことは、新しい言語を学ぶことに似ています。1回授業を受ければ終わり、というものではありません。1冊本を読めば済むものでもありません。失敗や挫折があることも受け入れながら、何年もかけて学び、実践し、軌道修正を重ね、自らを鍛えていく必要があります。

では、企業が取り組むべき重要なことは何でしょうか?

特に重要なのは、どのような人材を求め、何を重視するのかを明確にするための一連の評価指標を策定することです。同時に、面接担当者へのトレーニングも欠かせません。効果的な面接の進め方について研修を受けたことがない人が大半です。ここでいうトレーニングは、労働法に関するものだけではありません。会社が何を重視しているのか、そして候補者がその価値観に合致しているかをどのように見極めるのかについても学ぶ必要があります。

また、採用だけに意識を集中し、採用活動にすべてのリソースを投入しないことも重要です。採用は、より大きな課題の一要素にすぎません。人材を採用した後は、多様な人材を定着させる方法を考える必要があります。また、多様な人材を適切に評価し、昇進させる方法も検討しなければなりません。

結局のところ、すべては評価指標に行き着きます。まず、望む成果を明確にしてください。そこから、その成果を得るために必要な行動を見極めます。これまで人々の行動を測定してきた方法では、多様な人材の貢献を適切に評価できていなかったと認める必要があるかもしれません。

多様性の価値は、肌の色や身体的特徴、宗教が異なる人をそろえることではなく、異なる思考プロセスを取り入れることにあります。だからこそ、多様な人材が経営に携わる企業は、より大きな成功を収め、収益性も高いのです。そこには、異なる考え方をする人々が集まっています。外見や考え方が異なる人々が力を発揮し、その意見に耳を傾けてもらい、支持されたり評価されたりできる環境を整えていないとすれば、それは大きな間違いです。最終的には、新たな人材、多様な視点、そしてイノベーションを生み出す力を失い、企業として停滞することになります。

最近、CEO向けのワークショップを開催したところ、ある参加者が、取締役会の多様性を高めようとしてきたものの、まったくうまくいっていないと話していました。その原因は、候補者を評価する基準にありました。候補者には、上場企業のCEOを務めた経験が求められていたのです。この基準だけで、優秀で大きな価値をもたらす可能性のある多くの候補者が除外されていました。排他的にならない形で必要なスキルを備えた人材を確保できるよう、評価基準を見直すべきです。そのCEOは実際にそうし、この特定の歴史的な偏見を取り除いたことで、状況は大きく変わりました。

では、私たち一人ひとりが日々できることは何でしょうか?

多様な背景を持つ従業員の声が届くよう後押しすることが重要です。ここでいう後押しとは、その発言を繰り返すことではなく、会話の焦点を発言者に戻すことです。女性が何かを提案しても、周囲が発言を遮って話を進めてしまう場合は、率先して声を上げ、その人の発言や意見がきちんと伝わるよう支援してください。

また、チームリーダーが女性や有色人種の場合、部下から十分な支持を得られないことがあります。上の立場からその状況を変えられるのであれば、行動に移してください。部下の立場であれば、何もせずに状況の悪化を許していないか、意識して確認してください。

「女性は最悪の上司だ。一緒に働くなんて無理だ」と言う人たちの話を聞くたびに、本当にうんざりします。そんなことはありません。上司として問題のある男性や、ストレスを抱えた男性と比べても、女性だけが違う振る舞いをしているわけではありません。ただ、女性の場合はそれが不利に捉えられるのです。こうした思考パターンを助長する側に回らないでください。私たちは、女性や有色人種には許さないことでも、男性なら大目に見てしまいます。そのことを強く意識してください。

クライアントから得られる協力も少ない傾向にあります。歴史的に、クライアントは男性には敬意を払い、その業務上のニーズ(たとえば、技術的な質問への回答や説明)に応じやすいからです。企業として、この点にも注意を払う必要があります。女性従業員が「クライアントに質問しましたが、まだ返事がありません」と言い、同じ状況にある男性ならこのようなことは起きなかったと分かっているなら、勇気を持ってクライアントに指摘してください。無意識の偏見をなくす最善の方法は、それを明るみに出すことです。「この従業員に対して、ほかの人とは違う対応をしています。それはなぜですか」と問いかける人になってください。

会社の長期的な成功は、優秀な人材を確保し、誰もが活躍できる機会を提供できるかどうかにかかっています。それを最優先にしてください。

F5からの補足的な見解:

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タグ: Diversity, EMEA

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