


AIインフラストラクチャの処理速度が低下する原因は、コンピューティングリソースの制約だけではありません。AIワークフローの稼働を維持するうえで、データを十分な速度、一貫性、信頼性で転送できない場合にも、処理速度は低下します。モデルのトレーニング、ファインチューニング、検索拡張生成(RAG)において、S3互換オブジェクトストレージは重要な基盤となっています。大規模なデータセットはオブジェクトストアに格納され、トレーニングジョブはそれらを大規模に読み取ります。RAGパイプラインには、継続的に変化するデータへの高速かつ予測可能なアクセスが不可欠です。
そのため、ストレージとコンピューティング間のデータパスの信頼性、拡張性、セキュリティは、本番環境における重要な課題となります。
AIには、より強力なデータパスが必要
Dell ObjectScaleは、AI規模のエンタープライズ向けオブジェクトストレージとして設計されており、大規模なデータ収集、生成AIのトレーニング、最新の非構造化データワークロードの管理を支援します。しかし、AI環境がパイロットプロジェクトから本番運用へ移行するにつれ、ストレージ性能だけではアーキテクチャ全体の一要素にすぎません。企業には、トラフィックを最適化し、可用性を維持し、ポリシーを適用するとともに、環境に負荷がかかっている状況でもパイプラインを稼働し続けるためのデリバリーレイヤーも必要です。
これが、AIデータ配信においてF5 BIG-IPが果たす役割です。
F5 BIG-IPは、S3互換オブジェクトストレージ向けに、プログラム可能な高性能の制御ポイントを提供します。S3クライアントとDell ObjectScaleなどのストレージ環境の間に配置され、S3トラフィックのインテリジェントな管理、バックエンドストレージエンドポイントの抽象化、健全性の監視、可用性、パフォーマンス、ポリシーに基づくデータフローの振り分けを行います。
アーキテクトにとっては、アプリケーションとAIワークフローを基盤となるストレージ実装から切り離した状態に保てることを意味します。経営層にとっては、AIインフラストラクチャをより高い信頼性、制御性、レジリエンスで運用できることを意味します。
“AI環境がパイロットプロジェクトから本番運用へ移行するにつれ、ストレージ性能はアーキテクチャ全体を構成する一要素にすぎなくなります。企業には、トラフィックを最適化し、可用性を維持し、ポリシーを適用するとともに、環境に負荷がかかっている状況でもパイプラインを稼働し続けられるデリバリーレイヤーも必要です。”
SecureIQLabがアーキテクチャと成果を検証
F5は先ごろ、Dell ObjectScaleストレージを対象に、F5 VELOSおよびBIG-IPとDell ObjectScale S3クラスターを使用したエンジニアリングラボテストを完了しました。その後、SecureIQLabが結果を検証し、新たな独立レポートとして公開しています。
このテストでは、AIストレージの前段にデリバリーレイヤーを配置する前に、エンタープライズアーキテクトが検討する2つの実践的な疑問に焦点を当てました。
- スループットを損なうことなくBIG-IPをS3データパスに組み込み、さらに、完全とはいえないネットワーク条件下でスループット指標を改善できる可能性はあるか?
- ストレージ環境が悪条件下にある場合、BIG-IPによってレジリエンスを向上できるか?
どちらの問いに対する答えも「はい」でした。
BIG-IPがパフォーマンスを維持
多くのストレージ購入者は、高性能なオブジェクトストアの前段にアプリケーションデリバリーコントローラーを追加すると、無視できないオーバーヘッドが生じると考えています。アーキテクトがデータパスに新たな制御ポイントを設ける前に、その根拠を求めるのは当然です。
テスト範囲全体(3つのオブジェクトサイズ:8 KiB、100 MiB、混合ワークロード、および3つのネットワーク遅延条件:RTT 0 ms、10 ms、75 ms)において、テストしたすべての組み合わせで、BIG-IPのスループットは保護なしのベースラインに対して約±6%以内に収まりました。適切に調整したカスタムTCPプロファイルを使用すれば、BIG-IPの挿入による影響は予測可能かつ一貫しており、ストレージの前段へのプロキシ挿入に対してアーキテクトが従来懸念してきたようなスループットの大幅な低下は発生しません。
実運用上の意味は明確です。BIG-IPは、ボトルネックになることなく、価値の高い制御ポイントとして導入できます。アーキテクトは、スループットを犠牲にせずに、レジリエンスとトラフィック管理機能を活用するためにBIG-IPを採用できます。
より大きな価値はレジリエンス
スループットに影響を与えないことが前提条件です。導入する理由はレジリエンスにあります。
SecureIQLabの検証を受けたテストでは、実際の本番環境に相当する2つの不利なシナリオを検証しました。
単一のObjectScaleノードを標的としたDDoS攻撃のシミュレーションでは、保護されていないクラスターに重大な障害が発生しました。対象ノードでは接続リソースの枯渇が始まり、ObjectScale管理UIはクラスター全体で応答しなくなり、ワークロードジェネレーターはノードへのトラフィック送信を停止しました。データパスにBIG-IPを配置した場合、同じ攻撃条件でも結果は異なりました。BIG-IPが接続レベルの攻撃トラフィックを吸収して処理したため、バックエンドノードは障害を起こすことなくアプリケーションワークロードの処理を継続し、ObjectScale管理UIも応答を維持しました。
バックエンドノードのネットワーク障害発生時、BIG-IPはバックエンドノードの可用性と接続状態を継続的に監視しました。ノードへの接続が中断されると、クライアント側での対応を必要とせず、残りの正常なノードにトラフィックが動的に再分散されました。実行中のS3ワークロードは、サービスを中断することなく継続しました。
AIインフラストラクチャチームにとって、これはアーキテクチャ全体に関わる重要なポイントです。本番環境では、データパスが実際の運用条件に耐えられなければなりません。ノードに障害が発生し、ネットワークの品質が低下し、トラフィックが急増します。攻撃トラフィックが正規のトラフィックと競合し、メンテナンス時間帯がビジネス需要と重なることもあります。
専用の制御ポイントがなければ、こうした事象によって、トレーニング処理の停滞、RAGクエリの失敗、GPUのアイドル状態、予測不能なユーザー体験が生じる可能性があります。
本番環境のAIには制御ポイントが不可欠
BIG-IPは、AIデータ向けにレジリエントな配信層を構築することで、こうしたリスクへの対処を支援します。ストレージの健全性を監視し、利用できないノードを迂回してトラフィックをルーティングし、サービスの継続性を維持するとともに、ストレージクラスターが不安定になる前にトラフィック制御を適用できます。
また、TLS処理、DDoS緩和、S3対応のポリシー適用に加え、クライアントが不規則なタイムアウトではなく予測可能なバックプレッシャーを得られるよう支援する将来のデータプレーン制御など、セキュリティとガバナンスを一貫して適用するための基盤も提供します。
AIストレージクラスターを導入する企業にとって、これは実用的なアーキテクチャパターンです。スケーラブルなS3互換オブジェクトストレージと、パフォーマンス、ポリシー、レジリエンスに特化して設計されたインテリジェントな配信レイヤーを組み合わせます。
AIリーダーが押さえるべきポイント
AIリーダーにとって、ビジネス価値は明確です。レジリエントなストレージデリバリーにより、運用リスクを軽減できます。プログラム可能な制御ポイントがあることで、AIワークロードを実験段階から本番環境へと拡張する際にも、チームはより確信を持って対応できます。また、BIG-IPはスループットを低下させることなく導入できるため、パフォーマンスを犠牲にせずにレジリエンスを向上できます。
AIの成功を左右するのは、モデルだけではありません。モデルを取り巻くシステムも重要です。
SecureIQLabレポートをダウンロードして、Dell ObjectScaleと組み合わせたF5 BIG-IPに関する検証済みの結果をご確認ください。また、F5がAIデータパイプラインの高速化とレジリエンス向上を支援し、本番環境への対応を可能にする仕組みをご覧いただけます。
また、ウェビナー「DellインフラストラクチャによるAIパフォーマンスの向上」もぜひご覧ください。
著者について

Paul PindellはF5のプリンシパルアーキテクトです。Technology Alliances部門で、F5の製品ポートフォリオ全体にわたる技術パートナーシップを統括しています。2019年以降は、F5初のイノベーションプロジェクトの立ち上げ支援をはじめ、全社戦略の取り組みにおいても重要な役割を担っています。F5のAI戦略タイガーチームを率い、F5の既存製品がAIアプリケーションのセキュリティ確保とデリバリにどのように貢献できるかを明確にすることに注力しました。その後、AIアプリケーションのデリバリとセキュリティを支えるために必要な中核的な構成要素、課題、リスク、パートナーソリューションを示すF5のAI Reference Architectureの策定にも携わりました。OPI Summit、OCP Global Summit、Intel InnovatiON、Open Source Summit、Red Hat Tech Exchangeのほか、米国およびEMEA各地で開催された複数のVMworldカンファレンスなど、業界イベントで基調講演や分科会講演を数多く行っています。また、オープンソースプロジェクトの創設者兼メンテナーであり、Open Programmable Infrastructure ProjectのOutreach Committeeで委員長を務めています。以前は、SymantecのAntivirus Response Data Centersおよびセキュリティソフトウェアテストラボのデータセンター運用を統括していました。
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Mark MengerはF5のソリューションアーキテクトで、AIおよびセキュリティ技術のパートナーシップを専門としています。F5のAIリファレンスアーキテクチャの開発を主導し、安全で拡張性の高いAIソリューションの推進に取り組んでいます。グローバルソリューションアーキテクトおよびソリューションエンジニアとしての経験を持ち、F5のセキュアクラウドアーキテクチャに貢献したほか、分散型4階層アーキテクチャを共同開発しました。『Solving IT Complexity』の共著者でもあり、IT課題への対応に関する専門知識を有しています。以前はアプリケーション開発者やエンタープライズアーキテクトを務め、モダンアプリケーション、自動化、AI投資から得られる価値の早期実現に注力していました。
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Hunter Smitは、F5でソリューションおよび戦略担当のプロダクトマーケティングシニアマネージャーを務めています。AIインフラストラクチャやアプリケーションセキュリティを含むF5ポートフォリオ全体のソリューションマーケティングを統括し、新興のAIデータデリバリー市場へのF5の参入を推進しています。Whitworth University School of Businessの諮問委員会メンバーであり、プロダクトマーケティングの非常勤講師も務めました。Whitworth UniversityでMBAおよび経営学の学士号を取得しています。
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