誰もが知る古くからのビジネスの格言に、「お客さまは常に正しい」というものがあります。
このデジタル経済では、この格言を次のように改める必要があります。「お客さまのデータは常に正しい」。

短い話を例にご説明しましょう。
最近、新しい車を買い、古い車を下取りに出すことにしました。古い車には約6年間乗っていましたが、年間走行距離は約3,000マイルでした。信じられないような話ですが、本当です。州外まで運転したのは、家族に会うためにオハイオ州へ行った一度きり。それ以外は、自宅から半径30マイル以内でしか乗っていませんでした。私はよく冗談で、「日曜日に教会へ行くときしか車に乗らないおばあさんみたい」と言っています。
ですから、販売店が参照した車両履歴レポート内のたった1行のデータを根拠に、走行距離計の表示が不正確で、実際とは30,000マイル以上もずれていると告げられたときの驚きを想像してみてください。しかも、そのデータには、私の車が2年前にノースダコタ州で整備を受けたと記録されていました。
この食い違いは、決して軽視できるものではありません。走行距離計の表示は下取り価格を左右し、改ざんは違法です(罰金刑や禁錮刑が科される可能性があります)。実際の走行距離計が示す数値は、レポートに記載された数値よりはるかに小さかったため、販売店が少なからず困惑したのも無理はありません。販売店は、車をノースダコタ州に持って行ったことは一度もないと主張する私を信じるか、持って行ったとするデータを信じるかという、望ましくない選択を迫られたのです。
問題はすぐに、「お客さまは常に正しい」のか、それとも「お客さまのデータは常に正しい」のか、という点に集約されました。
車両履歴レポートの不正確なデータによって被害を受けた例は、今回が初めてではありません。データの大半は今も手作業で入力されているため、ミスが発生します。しかし、その誤りを訂正するには、入力した本人がミスを認める必要があります。つまり、5年、10年、場合によっては15年も前にミスをしたことを本人が覚えていなければなりません。そもそも、データを入力した技術者がまだ在籍していて、ミスを認められる状況にあればの話ですが。
結局、私は新しい車に乗って店を後にし、販売店がレポートの訂正に対応することになりました。皆さんの中にも、同じような経験をした方が多いのではないでしょうか。デジタル経済では、こうしたことがあまりにも頻繁に起こります。
人的(エラー)要因
問題解決やデータマイニング、意思決定を機械に頼る場面が増えるにつれ、手元のデータが正確とは限らないことを認識する必要があります。そのデータが管理・受け渡しされる過程のどこかで、人が関与しているからです。そして、人は必ず間違いを犯します。6年前、ノースダコタ州のサービス技術者がキーを1つ押し間違えただけで、突然まぶしい照明の下に座らされ、これまで車で移動したすべての行程について尋問されることにもなりかねません。
意思決定に使用するデータをどこまで信頼するかについては、慎重に考える必要があります。注意すべきなのは偶発的な誤りだけではなく、意図的に仕込まれた誤りも同様です。断言しますが、皆さんのデータは汚れています。
DNSは、権威を持つ情報源と持たない情報源を明確に区別するよう設計されており、実に優れています。情報に食い違いがあっても、唯一の正しい情報源に照会して事実を確認できるからです。しかし、顧客データにはそのような仕組みがありません。これは潜在的な危険信号です。現在使用しているシステムも、近い将来使用するシステムも、何が正確で何が不正確かを必ずしも判断できないためです。そもそも、そのデータが正しいかどうかを検証する手段がありません。認証局も、DNSのように指定された権威を持つ情報源もありません。さらに、多くの場合、データに異議を申し立てる手段すらありません。
断片的なデータをつなぎ合わせて顧客のデジタル像を構築していく中で、そのデータが、ビジネス上の意思決定者である私たちと、データに基づいて導き出された結論の影響を受けながら生きていく一人の人間である顧客の双方に、どれほど大きな影響を及ぼし得るかを認識する必要があります。
F5はアプリケーションセキュリティソリューションのプロバイダーとして、データの持ち出しや窃取を防ぎ、データとアイデンティティを保護する重要性を繰り返し訴えています。しかし、視点を変えて、偶発的または悪意によって実際に起こり得るデータ破損について語ることはあまりありません。
Twitterで話題になる前に、データ破損についても考えるべきです。

人を標的とした報復的なデジタル攻撃は、さまざまな形で増加しています。911の通信指令員は携帯電話から正確な位置や住所を把握できないため、被害者が命に関わるスワッティング事件に遭うこともあります。リベンジポルノは現実に存在し、ソーシャルメディア上で友人や家族になりすます行為も日常的に起きています。また、KustodianのCEOであるChris Rockが、多くの国の死亡登録手続きに存在する脆弱性を悪用し、詐欺師が利益目的やいたずらで誰かを人為的に「死亡」扱いにできることをDEF CONで実演してから、すでに3年以上が経過しています(CS Monitor)。お気づきの方もいるでしょうが、これは1995年の映画『Hackers』で使われたハッキング手法の1つです。同作では、現実か思い込みかを問わず、何らかの侮辱への報復として、他人のクレジットカードを無効にしたり、虚偽の個人広告を掲載したりする手口も描かれていました。
このような報復行為が、やがてほかの場所のデータ改ざんにまで広がるのは時間の問題です。
私がアルミホイル帽子をかぶった陰謀論者のように思えるなら、次のことを思い出してください。2017年のRedLock CSIレポートでは、データベースの31%でインターネットに接続するポートが開放され、誰でもアクセスできる状態だったと指摘されています。また、MongoDB騒動では、27,000を超えるデータベースが一般公開されていました。適切なデータベースが開放されたまま悪意ある人物の手に渡れば、データに甚大な被害をもたらす可能性があります。
これは問題です。私たちは今、データが不可侵かつ絶対に正しい「真実」として扱われることの多い転換点に達しているからです。データ入力の誤りによって、その「真実」のせいで私は刑務所に送られていたかもしれません。
デジタルデータの精査
ビジネスや生活に関する情報がデジタル領域に保存される割合が増え続ける今、いったん立ち止まり、データウェアハウス内のビットやバイトが、現実に生きる人々の何らかの側面を表していることを忘れてはなりません。そのデータをどれほど慎重に扱うかは、実在する一人の人間であるお客さまに対する姿勢の表れです。今日入力するほんのわずかなデータが、後にお客さまを害する形で解釈される可能性を予測できないからこそ、慎重さが求められます。実際、私の車両履歴に記録された情報は、ノースダコタ州でのオイル交換を登録するためだけのものでした。悪意はまったくありませんでしたが、私にとって深刻な結果を招きかねませんでした。
データの破損防止を考慮したセキュリティポリシーの策定、アプリやデータベースへのアクセス制御、手作業によるデータ入力への一層の注意など、どのような対策を講じる場合でも、データそのものは嘘をつかず、入力された内容をそのまま表している一方で、入力した人が嘘をついている可能性があることを忘れてはなりません。
著者について

Lori MacVittieは、F5のOffice of the CTOに所属するDistinguished Engineer兼Chief Evangelistであり、アプリケーションデリバリ、自動化戦略、インフラストラクチャに関する深い専門知識を有しています。AIエージェントのガードレール策定、脆弱なマルチクラウドアーキテクチャの分析、スケーラブルなシステムの限界の検証など、複雑な事柄を明快にすることで知られています。アプリケーション開発、ITアーキテクチャ、ネットワークおよびシステム運用の分野で、30年以上にわたる業界経験を有しています。F5入社前は、受賞歴のあるテクノロジー編集者として活躍していました。 MacVittieはコンピューターサイエンスの修士号を取得しており、セキュリティ、クラウド、エンタープライズアーキテクチャにわたる分野で多数の著作を発表しています。また、テーブルトークゲームとビデオゲームをこよなく愛し、チーズについては遠慮なく強いこだわりを語ります。
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