エンタープライズAIには、GPUの高速化やモデルの大規模化だけでは不十分です。ストレージチームがトレーニング、ファインチューニング、検索拡張生成(RAG)、推論に必要な容量を確保する中で、ストレージとコンピューティング間で大規模なデータセットを転送する速度という物理的な限界に直面します。この限界は、SLAの未達、クラウドストレージ費用の増加、妥当性を説明しにくい設備投資申請など、ストレージ責任者が説明責任を負う指標に表れます。
優れたストレージだけでは不十分
ほとんどのAIアーキテクチャでは、未加工のトレーニングデータセットやベクトルデータベースから最終的なモデルの重みまで、あらゆるデータの保存にS3互換オブジェクトストレージを利用しています。大規模な環境では、このストレージ環境が絶え間なく発生する同時読み取り・書き込み要求を処理できなければなりません。数ミリ秒のレイテンシーは一見わずかに思えますが、数十億のオブジェクトと数千のリクエストにわたって急速に積み重なります。データ配信が遅いと、コンピューティングリソースへのデータ供給が滞り、トレーニング時間が長引くだけでなく、推論の応答時間がストレージチームの確約するサービスレベルを超えてしまいます。
つまり、AIのパフォーマンスはデータパスの効率に左右されます。ネットワークのボトルネック、ストレージノードの過負荷、従来型のセキュリティポリシーによってトラフィックが制限されると、高価なハードウェアが十分に活用されません。優れたストレージは不可欠ですが、その価値が発揮されるのは、データがワークロードに迅速かつ安全に届く場合に限られます。このギャップが、SLA未達、GPUのアイドル状態、正当化できないストレージコストを招きます。
“F5とNetAppは連携し、ストレージチームが担うデータパスのボトルネックを解消します。”
AIデータ配信に潜むボトルネック
大規模環境でボトルネックとなるのは、モデルではなく、ほとんどの場合データ転送です。
トレーニング、ファインチューニング、推論の各ワークロードは、S3互換オブジェクトストレージから継続的にデータを取得します。データセットの拡大に伴い、ストレージレイヤーには、スループットや可用性を低下させることなくファイルを提供し続けられる処理能力が必要です。データストリームが遅くなると、後続のパイプライン全体が停滞します。
繰り返し発生するボトルネックは、次の4つです。
- ストレージノードの輻輳。オブジェクトストレージクラスター間のトラフィックに偏りがあると、一部のノードに過剰な負荷がかかる一方で、ほかのノードはアイドル状態になります。
- トランスポート層の制約。ネットワークスループットの上限とストレージコントローラーでのTLS処理により、ストレージプールとコンピューティングプール間のデータ転送が制限されます。
- セキュリティのオーバーヘッド煩雑なインラインチェックは、実環境での保護を向上させることなく、パイプラインを低速化させます。
- ストレージコストの重圧。高額なパブリッククラウドのストレージ階層に固定されたデータセットは、運用コストを押し上げ、オンプレミスの容量を確保する妥当性を説明しにくくします。
影響はストレージの指標だけにとどまりません。処理速度の低下によってトレーニングの実行時間が長引き、推論の応答時間が急増し、高価なGPUが遊休状態になります。データパスのボトルネックは、すでに投資したストレージとコンピューティングの費用対効果を損ないます。
パイプラインをフル稼働させ続けるには、大容量のストレージだけでは不十分です。コンピューティングクラスターへ高速かつセキュアに、途切れることなくデータを供給できるよう設計されたデータ配信経路が必要です。
F5とNetAppがレジリエントなデータパスを構築する仕組み
AIワークロードをスケールするには、高性能なストレージと、そのデータをコンピューティングリソースへ効率的にルーティングするデータパスが必要です。
NetApp StorageGRIDは、トレーニングと推論に必要な大量のS3互換オブジェクトデータを処理します。一方、F5 BIG-IPはStorageGRIDの前段に配置され、そのトラフィックを管理、保護、高速化します。BIG-IPは高スループットのデリバリーコントローラーとして機能し、ストレージプールからGPUクラスターへのデータ転送を最適化します。
F5とNetAppを組み合わせることで、ストレージチームが担うデータパスのボトルネックを解消します。主なメリットは次のとおりです。
- パフォーマンスとスループット。BIG-IPはストレージリクエストの負荷を分散し、トラフィックを適切に振り分け、重要なワークロードを優先することで、個々のストレージノードへの負荷集中を防ぎます。ハードウェアアクセラレーションによるTLS終端を使用すると、ストレージコントローラーに暗号処理の負荷をかけずに済むため、大容量のS3転送を回線速度に近い速度で実行できます。
- 可用性と可視性。この共同ソリューションは、ストレージノードの障害、定期メンテナンス、予期しないトラフィック急増の際にも、データの流れを維持します。同時に、F5のテレメトリとレイヤー7の可視性により、インフラストラクチャチームはトラフィックパターンの監視、利用傾向の把握、AIワークロードに影響が及ぶ前のパフォーマンスボトルネックの解消を行いやすくなります。
- パイプラインのセキュリティ BIG-IPは、ハードウェアアクセラレーションによる暗号化とアクセス制御でデータパスを保護し、転送速度を低下させることなく、機密性の高いトレーニングデータセットと独自のモデル重みを保護します。
- ストレージの柔軟性とコスト管理。BIG-IPはストレージに依存しないフロントドアとして機能し、パフォーマンス、可用性、またはポリシーに基づいて、S3リクエストを最適なStorageGRIDクラスターへインテリジェントに振り分けます。単一の環境を運用している場合でも、世界各地で複数のStorageGRID環境を運用している場合でも、F5は、アプリケーションを変更することなく、ユーザーとAIワークロードが最適なストレージリソースに接続できるよう支援します。
その結果、オブジェクトストレージとコンピューティングの間に、高速で信頼性とセキュリティに優れた経路が確保されます。転送遅延を解消することで、GPUの稼働率を維持し、突発的なAI負荷が発生してもストレージのサービスレベルを保ち、ストレージ責任者が既存のインフラストラクチャから得られる投資効果をより明確に把握できるようになります。
F5とNetAppの導入ガイドを公開しました
レジリエントなAIデータ配信の価値を理解することと、それを本番環境に導入することは別問題です。
そのため、F5とNetAppは共同導入ガイドを公開しました。現在ご利用いただけます。このガイドでは、StorageGRIDの前段にBIG-IPを構成し、S3トラフィックを最適化する方法、ストレージノードおよびサイト全体で高可用性を維持する方法、データパスをエンドツーエンドで保護する方法を詳しく説明しています。ストレージおよびインフラストラクチャチーム向けに、検証済みのアーキテクチャ設計、仮想サーバー、S3ヘルスモニタリング、TLSオフロードの段階的な構成手順に加え、大容量のオブジェクト転送に対応するためのチューニングガイダンスも掲載しています。
共同導入ガイドは、トレーニング、推論、RAG向けのデータパイプラインを構築するエンジニアリングチームにとって、実践的な設計指針となります。S3のフロントエンドをゼロから設計する代わりに、検証済みの構成パターンを導入し、自社環境でスループットと可用性の数値を実証できます。その結果を根拠として、次回のキャパシティに関する意思決定の妥当性を示せます。
詳細については、F5とNetAppの導入ガイドをダウンロードしてください。
NetApp INSIGHT 2026でF5チームに会いましょう
F5は、米国ネバダ州ラスベガスのMGM Grandで本日から10月1日まで開催されるNetApp INSIGHT 2026のスポンサーです。会場では、F5とNetAppの共同アーキテクチャをご紹介するとともに、ノードの輻輳、TLSオフロード、マルチサイトフェイルオーバー、AIデータセットのオンプレミス環境への回帰など、ストレージチームが直面しているデータパスの課題についてご相談いただけます。
ブース#303のF5 NetApp INSIGHTにお立ち寄りいただき、9月29日(水)14:30からのセッション「データ配信が重要な理由と、F5とNetAppが実現するレジリエントなストレージ」をINSIGHTのアジェンダに追加してください。ラスベガスでお会いしましょう。
著者について

関連するブログ記事

F5 Application Study Tool:OpenTelemetryによるF5 BIG-IP環境の監視
F5の新しいオープンソースツールは、BIG-IP環境を詳細に可視化し、データを追跡するとともに、強力でカスタマイズ可能なインサイトを得るための基盤を提供します。
F5 BIG-IPでAI防御を実現
F5 BIG-IP Advanced WAF、BIG-IP APM、BIG-IP SSL Orchestratorが、生成AIアプリ向けに包括的なセキュリティソリューションを提供する仕組みをご覧ください。
F5 Advanced WAFによるGraphQL APIの保護
ここ数年、多くの組織がデジタルトランスフォーメーションを進めており、COVID-19のパンデミックによってその動きは加速しています。
アプリケーションサービスの現状 通信業界版:リーダーとしての台頭
通信ネットワークが進化し、さまざまな業界の幅広いユースケースに対応するなか、通信業界の回答者がテクノロジーリーダーとしての存在感を高めていることがわかります。
デジタルトランスフォーメーションは、単なるペーパーレス化ではない
デジタルトランスフォーメーションは、単なるペーパーレス化ではありません。真のモダナイゼーションにアプリケーションアーキテクチャとセキュリティの再構築が必要な理由を、F5ブログでご覧ください。
やめましょう。もう本当にやめましょう。HTTPSはHTTPより高速ではありません。
もうやめましょう。HTTPSはHTTPより高速ではありません。プロトコルのパフォーマンスに関する微妙な違いと、暗号化トラフィックを適切に最適化する方法については、F5ブログをご覧ください。