



AI向けの環境を構築するストレージチームには、データ転送を高速化する手段が数多くあります。しかし、最近ますます問われるようになっているのは別の問題です。ノードに障害が発生した場合、再構築が長引いた場合、エージェントが不正な動作をした場合、または権限のない者に通信を傍受された場合でも、トレーニング、検索拡張生成(RAG)、推論を支えるデータに引き続きアクセスでき、データの完全性が維持されるかどうかです。
F5は、レジリエンスとセキュリティがAIストレージインフラストラクチャのアーキテクチャにおける重要な要素だと考えています。この2つは一体として取り組むべき設計上の課題であり、両方を解決するのに適しているのは、S3を理解するフロントドアです。本記事では、F5がこのように考える理由、F5の取り組み、そして先ごろストレージ開発者コミュニティにこの考えを提起した場について説明します。
レジリエンスとセキュリティは同じ課題
検索拡張生成(RAG)は、ネイティブRAGから高度なRAG、モジュラーRAG、グラフRAGに至るまで、各段階でオブジェクトストアからより多くのベクトルとドキュメントを取得し、より充実した回答を返します。そのため、ストレージの可用性とアクセスレイテンシーも、生成速度と同様に、トークン生成までの時間を左右する要素となります。
同時に、長年にわたりS3互換ストレージが利用されてきた現在でも、S3互換であることが相互運用性を意味するわけではありません。そのため、ストレージの前段に一貫したフロントドアを配置し、クライアントが予測可能な単一のエンドポイントと通信できるようにすることには、実用上の意義があります。これにより、背後でどのベンダーのシステムが応答しているかをクライアントが意識する必要はありません。また、ストレージクラスターは、ノード停止やネットワーク障害から、高密度ドライブに伴う再構築時間の長期化まで、さまざまな理由で性能が低下したり、障害が発生したりします。その場合、クライアントに影響を感じさせないよう、トラフィックマネージャーはストレージへの呼び出しを、正常かつ十分な性能を維持しているノードにルーティングする必要があります。
“トラフィックレイヤーがS3を理解すれば、レジリエンスとセキュリティを別々に扱う必要がなくなり、1つの制御ポイントに統合できます。”
現在では自律型エージェントもストレージに直接アクセスするようになっています。人間以外の呼び出し元が自らバケットを開けるようになると、アクセス制御は、リクエストがすでに処理された後の下流ではなく、S3レイヤー自体に配置する必要があります。問題は、現在オブジェクトストレージクラスターの前段にあるロードバランサーの多くが、S3を想定して設計されておらず、こうした状況を一切把握できないことです。トラフィックレイヤーがS3を理解できるようになれば、レジリエンスとセキュリティは別々の取り組みではなく、1つの制御ポイントに統合されます。
ストレージプラットフォームに到達する前に転送中のデータを保護
Consider harvest now, decrypt later, the attack pattern in which an adversary records encrypted traffic today in the expectation of decrypting it once quantum computing makes that practical. Most object storage platforms cannot yet protect data in flight with quantum-resistant encryption. F5 BIG-IP with post-quantum cryptography capabilities can sit ahead of the storage and close that window without waiting for every storage vendor to ship an implementation of its own. It is a clear example of security that is native to the storage path rather than attached somewhere else in the stack, and it is the kind of control a storage team can adopt without changing anything about the cluster behind it.
“スループット低下が解消されれば、プロキシがパイプラインの負担になることはありません。”
これを可能にしたのは、F5がBIG-IP向けのS3専用TCPプロファイルを確立するために実施した調査とラボテストです。また、SecureIQLabがDell ObjectScaleクラスターの前段に配置したBIG-IPを検証したことで、独立した第三者による確認も行われました。S3向けに最適化されたTCPプロファイルを使用すると、テストしたすべてのオブジェクトサイズとネットワーク遅延の組み合わせにおいて、S3のスループット低下は、経路上にBIG-IPがない場合のベースラインと比べて1桁台前半にとどまりました。同時に、同じ構成でサービスを妨害するクライアントトラフィックを抑制し、DDoS攻撃のシミュレーション中もS3サービスを稼働し続けました。スループット低下が解消されれば、プロキシはパイプラインの負担ではなくなり、経路上の1か所で障害ドメイン、暗号化、ポリシーを制御するポイントとなります。
最適化されたTCPフローとエコシステムが信頼するテストツール
BIG-IPで新たに定義されたS3 TCPプロファイルは、固定設定ではなく出発点です。特定の本番環境の特性に合わせてさらにカスタマイズおよびチューニングできるため、さまざまなS3トラフィックソースとオブジェクトストレージ間のTCPフローを最適化する目的で、データパスへのBIG-IP導入を検討するストレージ開発者にとって、特に重要なポイントとなります。
F5は、S3ストレージベンダーとその顧客がS3トラフィックの生成に利用しているテスト手法やオープンソースツールにも貢献していく方針です。あらゆるS3データパスに配置されることを想定したプロキシは、エコシステム全体で信頼されているものと同じツールで評価されるべきだからです。
パイプラインを設計するアーキテクトにとっての意味
これらすべてから、ほとんどのストレージアーキテクトがすでに直感的に適用していると思われる優先順位が見えてきます。レジリエンスを最優先し、次にセキュリティを重視します。パフォーマンスはコンポーネントを追加する理由ではなく、経路上のすべてのコンポーネントが満たすべき制約です。経営幹部がストレージチームに問うているのは、I/Oストリームの各コンポーネントに費やしたコストから組織が何を得られるのか、また、前述の障害や攻撃が発生した状況で各コンポーネントがどのように貢献するのかという点です。
データファブリックとデータインテリジェンスをめぐる業界全体の議論も、別の観点から同じ点を示しています。データがどこに存在するかではなく、どのように検出、ガバナンス、活用されるかが問われるようになると、次の調達サイクルでどのストレージプラットフォームが選ばれるかにかかわらず、すべてのS3互換バックエンドにわたって単一のエンドポイントとポリシー適用面を提供するフロントドアが不可欠になります。
F5は、この課題を「AIデータデリバリー」と表現しています。S3を理解するアプリケーションデリバリーコントローラーがデータパスで果たす役割は、注目を競う新たなパフォーマンス機能ではありません。トレーニング、RAG、推論が依存するデータに対して、可用性、アクセス制御、暗号化を適用するポイントとなります。
AIデータの可用性と信頼性を維持
そのため、グローバル企業は、AIデータ配信のレジリエンスとセキュリティを確保するために、S3互換ストレージの前段にF5を導入しています。BIG-IPは、ノード障害や取り込み量の急増が発生してもオブジェクトストアへのアクセスを維持し、S3レイヤーにセキュリティ制御を配置して不正なトラフィックがデータに到達するのを防ぎます。しかも、パイプラインの速度を低下させることなく、これらを実現します。このことは、Dell ObjectScaleを使用したSecureIQLabによる独立したテストで確認されています。ストレージアーキテクトにとっては、データパスに1つのレイヤーを追加することで、組織が信頼できるデータを使用してAIパイプラインを継続的に稼働できるようになります。
先日、SNIA SDC 2026でこれらのアイデアをご紹介しました
F5はサンタクララで開催されたSNIA Storage Developer Conferenceで、ストレージ開発者に向けてこの見解を発表しました。F5のPrincipal Solutions ArchitectであるPaul Pindellが、S3パスに最適化されたプロキシを配置することで、スループットを低下させることなく、レジリエンス、障害ドメインの制御、TLSオフロードを実現する仕組みを解説しました。
その後、S3向けTCPプロファイル、転送中データの耐量子保護、エコシステムのテストツールを用いたプロキシの評価方法について質問が寄せられました。こうした質問から、ストレージチームがすでに、S3互換ストレージを理解するフロントドアを求めていることが改めて明らかになりました。F5がストレージクラスターへのレジリエントでセキュアなアクセスをどのように提供するかについて詳しくは、「AIデータ配信のユースケース」ページをご覧ください。
著者について

Florin Meilescuは、F5のシニアプリンシパルソフトウェアエンジニア兼テストアーキテクトです。ハードウェア、ソフトウェアプラットフォーム、パブリッククラウド環境にわたるBIG-IPのソリューションテストアーキテクトを務めています。Citrix NetScalerでの経験を含め、アプリケーションデリバリコントローラー(ADC)市場で20年以上の経験を有しています。専門分野は、L2からL7までのプロトコルと、それらを扱うLinuxサーバーからキャリア初期にサポートしていたネットワーク機器まで、幅広いシステムに及びます。ブカレスト工科大学で工学の学士号を取得しています。
Florin Meilescuのその他のブログ記事
Paul PindellはF5のプリンシパルアーキテクトです。Technology Alliances部門で、F5の製品ポートフォリオ全体にわたる技術パートナーシップを統括しています。2019年以降は、F5初のイノベーションプロジェクトの立ち上げ支援をはじめ、全社戦略の取り組みにおいても重要な役割を担っています。F5のAI戦略タイガーチームを率い、F5の既存製品がAIアプリケーションのセキュリティ確保とデリバリにどのように貢献できるかを明確にすることに注力しました。その後、AIアプリケーションのデリバリとセキュリティを支えるために必要な中核的な構成要素、課題、リスク、パートナーソリューションを示すF5のAI Reference Architectureの策定にも携わりました。OPI Summit、OCP Global Summit、Intel InnovatiON、Open Source Summit、Red Hat Tech Exchangeのほか、米国およびEMEA各地で開催された複数のVMworldカンファレンスなど、業界イベントで基調講演や分科会講演を数多く行っています。また、オープンソースプロジェクトの創設者兼メンテナーであり、Open Programmable Infrastructure ProjectのOutreach Committeeで委員長を務めています。以前は、SymantecのAntivirus Response Data Centersおよびセキュリティソフトウェアテストラボのデータセンター運用を統括していました。
Paul Pindellのその他のブログ記事
Sandeep AgarwalはF5のシニアソフトウェアアーキテクトとして、高性能分散システムとエンタープライズAIパイプラインの中核インフラストラクチャおよびネットワークセキュリティを統括しています。低レイテンシのAIトレーニングおよび推論アーキテクチャに加え、トークンガバナンスと動的なAI負荷分散を推進しています。また、eBPF、FPGAオフロード、DPUを活用したハードウェアアクセラレーション対応データパイプラインを担当し、Kubernetes、Cloud-Native Network Functions、L2~L7セキュリティのアーキテクチャを主導しています。これまでに、Juniper Networksでスタッフソフトウェアエンジニア、Symantecでシニアプリンシパルソフトウェアエンジニア、Sun Microsystemsで技術スタッフを務めました。Oregon State Universityでコンピューター工学の修士号を、Birla Institute of Technology, Mesraで電子・通信工学の学士号を取得しています。
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Jonathan Chenは、F5のSSL Orchestrator担当ソフトウェア開発アーキテクトとして、TLSインターセプション、フォワードプロキシポリシー、サードパーティ製セキュリティデバイスのサービスチェイニングに関する取り組みを主導しています。また、データ損失防止機能と新しいプログラマビリティランタイムをBIG-IPデータプレーンに統合する責任を担い、両者のアーキテクチャとロードマップを策定しています。以前はTrend Microの米国担当アーキテクトとして、侵害の検知と防止に注力していました。F5での最初の在職期間には、高性能SSL-VPN、アプリケーション書き換えプロキシ、ネットワーク最適化、セキュアWebゲートウェイに携わりました。Jonathanは、テキサス大学オースティン校でコンピューターサイエンスの学士号と修士号を優等で取得しています。
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