F5レポート2026:AI推論の本格化で、すでに複雑なIT環境がさらに複雑に

F5 Research | 2026年5月05日

AI推論は、実験段階から本番運用へと移行しました。F5の「2026年版アプリケーション戦略の現状レポート」によると、現在、企業の78%がAI推論を社内で実行しており、平均的な組織では7つのAIモデルが本番環境で稼働中、または評価中です。AIへの投資を模索する時代は終わりました。

運用AIの時代が到来し、過去10年にわたり安定して機能してきた仕組みが、まさに崩れようとしています。

企業のAI活用では、今やAI推論が中心

同じレポートによると、77%の組織では、モデルのトレーニングやチューニングではなく、推論がAI活用の中心となっています。この数字は、AIの価値が実際に生まれる領域で起きている、これまで十分に認識されてこなかった変化を示しています。

学習は注目を集めますが、コストが発生するのは推論です。推論では、モデルが実際のお客さまからの実データを受け取り、実際のシステムが処理に使用する出力を生成します。ROIが計上され、エラーが顕在化し、レイテンシ、精度、コストに関する一つひとつの判断が積み重なって収益に影響するのも推論です。現在、AIから測定可能なリターンを得ている組織は、最も多くのモデルを保有する組織ではありません。推論を適切に運用している組織です。

“運用AIの時代が到来し、この10年間にわたり安定して機能してきたものが、まさに崩れようとしています。”


だからこそ、レポートの次の調査結果が重要です。88%の組織が、AIから得たインサイトを日常業務のワークフローや意思決定に活用するうえで、アーキテクチャ、組織体制、またはセキュリティ上の課題を抱えていると回答しています。推論がもたらすメリットは確かにあります。一方、運用を誤った場合のコストも現実のものです。

AI推論は急速に分散システムへと移行しています

さらに重要なのは、こうした組織が運用しているモデルは1つではないという点です。平均で7つのモデルを運用しており、その理由はハイブリッドマルチクラウドを採用する理由と共通しています。プロバイダー間のコスト差の活用、複数リージョンでの可用性、主権や規制上の境界への対応です。端的に言えば、あらゆるタスクに最適な単一のモデルは存在しません。高度な分析には推論モデル、大量の分類処理には小規模モデル、規制対象のワークフローにはドメイン特化型モデル、ロングテールのタスクには低コストのモデルが適しています。

マルチモデルは過渡的なアーキテクチャではありません。それを生み出したビジネス上および技術上の圧力がなくなることはないため、今後も定常的な状態として続きます。

アーキテクチャ上の帰結として、推論は単なるAPI呼び出しではなく、フリートとして捉えるべきものになります。そして、分散システムのあらゆる特性を引き継ぎます。たとえば、負荷がかかると超過するレイテンシ予算、お客さまがスクリーンショットを撮るまで表面化しない部分障害、誰もダッシュボードで監視していない箇所で膨らむコスト、さらには開発者が立ち上げられるすべてのモデルエンドポイントにまで拡大したセキュリティ境界です。

ここで、このレポートの中でも特に厳しい数字が浮かび上がります。単一のAI管理ポイントを通じて開発者のワークフローを効率化していると回答したのは、わずか28%でした。残る72%は、単一の制御ポイントがないまま分散推論を運用しています。推論がビジネスに不可欠となる一方で、ほとんどの企業では、分断された複数の制御インターフェースにまたがって推論を運用しています。

企業が直面する新たなレベルの複雑さ

これは、デジタル分野のリーダーにとって何を意味するのでしょうか。次の競争優位性の波を生み出すのは、アルゴリズムではなく運用です。

ユースケースは具体的で、すでに本番環境で運用されています。金融サービス企業ではリアルタイムの不正検知、医療機関では診断の迅速化、製造業では機器の故障予測に活用されています。いずれの場合も、モデル自体が差別化要因ではありません。多くの競合企業も同様のモデルを利用できます。差別化を生むのは、適切なレイテンシーとガバナンスの下、事業として許容可能なコストで、これらのモデルを確実に運用できる能力です。

これにより、すべてのエンタープライズアーキテクチャチームが問うべきことも変わります。問うべきは「どのモデルを採用すべきか」ではなく、「クラウド、オンプレミス、エッジに分散する多数のモデルを、一貫したセキュリティ、信頼性、コスト管理のもとでどのように運用するか」です。

答えは、より大規模なモデルではありません。より優れた運用です。レイテンシーの低減。俊敏なスケーリング。エンドツーエンドの可視性。データ、アイデンティティ、コストの戦略的な管理。そして、18か月前まではほとんどのチームが本番環境で実行したことのなかったワークロードに、運用規律を適用することです。

マルチモデルAI推論のための統合プラットフォーム

企業がマルチモデル推論を導入する中で、そこから生じる複雑さは、モデル自体に関する個々の意思決定以上に、AI投資の成果を左右することになります。

推論フリート全体で稼働する分散したツールを統合できない組織は、セキュリティ、信頼性、コストに関するリスクが複合的に増大する状況にさらされます。IDCの「FutureScape 2026: Worldwide Agentic Artificial Intelligence」レポートでは、「2027年までに、高品質でAI対応のデータ基盤を確立できない企業は、生成AIおよびエージェント型AIシステムが十分に機能せず、生産性が15%低下する」と予測しています。これは決して小さな数字ではありません。分断によるコストが四半期ごとに発生するのです。

逆の道を選ぶ企業は、逆の結果を得られます。デリバリー、セキュリティ、AIガバナンスを単一の運用モデルに統合することで、分散推論全体のリアルタイムな可視性、コストとリスクの管理、さらに別のツールスタックを抱え込むことなく次のAIユースケースを採用できる能力という、企業に有利に積み重なる効果が得られます。

ハイブリッドマルチクラウドから得られた教訓は、そのまま当てはまります。ハイブリッド環境を大規模に管理できるようにしたのは、統合されたサービスです。マルチモデルAI推論でも同じことが言えます。今後12~18か月でこの点を理解し、実践できる企業は、後から模倣することが難しい構造的な優位性を確立するでしょう。

さらに詳しく知るには、この課題に対応するために設計された「F5 Application Delivery and Security Platform」をご覧ください。これらの調査結果の基となる全データについては、「2026年版アプリケーション戦略の現状レポート」をダウンロードしてご確認ください。

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著者について

Kunal Anand
Kunal Anand最高製品責任者 | F5

Kunal Anandは、最高製品責任者としてF5の製品部門を率いています。製品のビジョン、戦略、実行を統括し、重要な課題を解決して優れた顧客体験を生み出す画期的なソリューションの開発を推進しています。前職の最高技術・AI責任者としては、F5のテクノロジーおよびAIに関する戦略とビジョンを策定しました。 F5入社以前は、Impervaで最高技術責任者と最高情報セキュリティ責任者を兼任していました。2013年に共同創業したアプリケーションセキュリティのスタートアップPrevotyが2018年に買収されたことを機に、Impervaに加わりました。Prevoty以前は、BBC Worldwideでテクノロジーディレクターを務めました。イノベーションと技術分野で豊富な実績と専門知識を有し、Gravity、MySpace、NASA Jet Propulsion Labでは、セキュリティ、データ、テクノロジー、エンジニアリングの各チームを率いる役職を歴任しました。 AIと機械学習の分野で15年以上の経験を持ち、モデルのトレーニング、AIを活用したアルゴリズムによる製品強化、AIアーキテクチャの設計と実装に携わってきました。 Babson Collegeでコンピューターサイエンスの理学士号を取得しています。

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