その昔、インターネットにアクセスできたのは、ハードウェアモデムを購入し、操作できる人に限られていました。あの暗黒時代を耐え抜いた人々の脳裏には、ハードウェアが発する耳障りな金切り音とHayesコマンドセットが、今も消えることなく刻まれています。
急速に発展するインターネットがより多くの人に利用されるようになったのは、CompuServeやAOLのようなソフトウェアが登場してからです。こうしたソフトウェアにより、モデムを購入できても操作できなかった人々も「ワールドワイドウェブを閲覧」できるようになりました。
時代は進み、現在では世界人口の半数を超える40億人以上がインターネットを利用できるようになっています。
インターネットへの接続手段は変わっていません。現在も、家庭内に平均7.8台あるデバイスと、それらがインターネット上で接続するアプリとの通信を維持するために、インフラストラクチャが複雑な処理を担っています。変わったのは、インフラストラクチャを操作するユーザーに求められることと、インフラストラクチャが提供するサービスを活用するためのソフトウェア要件です。今やモデムやルーターはコモディティ化し、使いやすさと運用のしやすさが主な訴求点となっています。
しかし、コストが高くても、技術的な機能や最適化、パフォーマンスを向上させる選択肢を重視する消費者層が増えています。こうした消費者が求めているのは、パフォーマンス上の問題を解決できる、最適化されたインフラです。そのようなメリットをうたう「プロ」向けデバイスは、高価格でも実際に売れています。実際、Netgearは現在、「ハイエンド」WiFiルーター市場の51%を占めていますが、これは主にゲームに特化した「プロ」向けルーター製品群によるものです。実を言うと、私も1台……いや、2台持っています。ゲームでは、ラグが命取りになることは誰もが知っていますから。
この技術サイクルは、イノベーションのSカーブ理論で表されることがよくあります。

このサイクルは、ほぼすべての業界で見られます。専門化からコモディティ化、そしてイノベーションへと、製品は同じ変革の道をたどります。今まさに、イノベーションの機会が開かれようとしています。いわば、インフラストラクチャのルネサンスです。
価値の創出
アプリケーションのワークロードが多様化・専門化する一方で、インフラのコモディティ化は非効率をもたらしています。
インフラストラクチャはもはや、暗号処理や高度な分析など、特定の種類のワークロードにリソースを提供することに重点を置いていません。インターネットトラフィックの速度と量の増大により、スケーリング戦略は垂直スケーリングに依存する方式から水平スケーリングモデルへの移行を余儀なくされています。ムーアの法則が限界を迎えつつある(少なくとも、処理能力に対する需要の伸びに追いついていない)中、ソフトウェアのみで構成される水平スケーリングシステムでは、規模の経済に限界があります。パフォーマンスへの悪影響を回避できたとしても、デジタルサービスの需要とともにスケーリングコストが増大すれば、利益が圧迫されます。このモデルは機能しますが、効率が悪く、規模の経済の改善に活用できるはずの処理能力が未活用のまま残ります。
テクノロジーが周期的に進化することを踏まえると、未活用の処理能力を引き出せる最適化されたインフラストラクチャが、まもなく必要になると考えられます。
インフラストラクチャには価値があります。その価値は、家庭や市場、学校など、さまざまな場面で実感できます。インフラストラクチャと最適化されたコンポーネントに価値があることは、議論の余地がありません。次の点を考えてみてください。
「S&P Global Market Intelligenceのデータによると、NVIDIA(NASDAQ:NVDA)の株価は昨年、76.3%急騰しました。配当を含めると、グラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)のスペシャリストであり、人工知能(AI)分野をリードする同社のリターンは76.9%でした。参考までに、2019年のS&P 500のリターンは31.5%でした」
Motley Fool、2020年1月
パブリッククラウドでは、プロバイダーが最適化されたインフラストラクチャの重要性を認識し、その基盤整備を進めています。Amazonが提供する266種類のインスタンスタイプのうち、すでにかなりの数が「最適化」インスタンスです。各インスタンスは、メモリ、I/O、コンピューティング、ストレージのいずれかのリソースを最適化することで、インフラストラクチャの価値を最大限に引き出すことに重点を置いています。ワークロードの要件に適した最適化インフラストラクチャを組み合わせることで、コスト効率を高められます。また、大量のデータをリアルタイムで分析するための最適化ニーズを背景に、GPUやFPGAに対応したインスタンスも増えています。
このような特定用途向けインスタンスが存在するのは、必要なパフォーマンスと容量が主に、処理する必要があるAI/ML機能の種類によって決まるためです。ストレージのビット数が多く、メモリ帯域幅が広いほど適している機能もあれば、クロック速度が速い、またはCUDAコア数が多いほど高いパフォーマンスを発揮する機能もあります。具体的なアプリケーションによって、インフラストラクチャの要件が決まります。
最近のNVIDIAによるArm買収を例に考えてみましょう。400億ドルという巨額の買収額は、分散AIが一翼を担う未来への投資として正当化されています。その実現には、専用ハードウェアの活用も寄与します。
「Simon Segars氏とArmのチームは、世界のほぼすべてのテクノロジー市場に貢献する卓越した企業を築き上げました。NVIDIAのAIコンピューティング能力とArmのCPUが持つ広大なエコシステムを融合することで、クラウド、スマートフォン、PC、自動運転車、ロボティクスからエッジIoTに至るまでコンピューティングを進化させ、AIコンピューティングを世界の隅々にまで広げることができます。」
エッジへの展開
組織が生成するデータ量を増やし、そこからビジネス価値を引き出そうとする中、データを活用する技術として、AIとMLを活用した分析と自動化が有力な選択肢となることは間違いありません。こうしたワークロードこそ、最適化されたインフラストラクチャのメリットを得られるものですが、現時点ではそのメリットを最も活用しにくいワークロードでもあります。
現在、このインフラストラクチャの革新を最も有効に活用できるのはデータセンターとパブリッククラウドですが、あらゆる企業が高性能ハードウェアのメリットを享受できるようにする最近の取り組みは、この動きが今後も続くことを示しています。テクノロジーがもはやデータセンター内にとどまらず、コーヒーメーカーやスマートフォンにも組み込まれているように、ハードウェア最適化への関心が再び高まることで、強力なコンピューティングリソースをインターネットの最先端であるエッジまで分散できるようになります。そこで強化された処理能力とデータが提供され、AIベースの分析を支えます。
あらゆる企業がAIとアナリティクスのメリットを享受できるようにすることは、カスタマージャーニーがデジタルトランスフォーメーションの3つのフェーズを進むのを加速するうえで、解決すべき課題の1つです。そして、この課題の解決には、最終的にインフラストラクチャのルネサンスが一役買うことになります。
著者について

Lori MacVittieは、F5のOffice of the CTOに所属するDistinguished Engineer兼Chief Evangelistであり、アプリケーションデリバリ、自動化戦略、インフラストラクチャに関する深い専門知識を有しています。AIエージェントのガードレール策定、脆弱なマルチクラウドアーキテクチャの分析、スケーラブルなシステムの限界の検証など、複雑な事柄を明快にすることで知られています。アプリケーション開発、ITアーキテクチャ、ネットワークおよびシステム運用の分野で、30年以上にわたる業界経験を有しています。F5入社前は、受賞歴のあるテクノロジー編集者として活躍していました。 MacVittieはコンピューターサイエンスの修士号を取得しており、セキュリティ、クラウド、エンタープライズアーキテクチャにわたる分野で多数の著作を発表しています。また、テーブルトークゲームとビデオゲームをこよなく愛し、チーズについては遠慮なく強いこだわりを語ります。
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