管理されていないAIインフラに潜むコスト

F5 ADSP | 2026年1月20日

AIインフラチームは今、組織の歴史上でも最大規模となるテクノロジー投資の1つを進めています。すでにGPUクラスターを本番環境で稼働させている組織もあれば、稼働開始に向けて準備中の組織もあります。いずれの場合も、課題は同じです。AIインフラの導入後は、不安定性、非効率性、トラフィック制御の不備が、価値の損失や運用リスクに直結します。

問題が発生すると、その影響はすぐに現れます。サービスの速度が低下し、処理能力も落ちます。チームは、つい先ほどまで稼働していたシステムの復旧に追われます。まだ十分に活用されていない環境も例外ではありません。導入初期の不安定性、設定ミス、トラフィックパターンの偏りは、将来の成長を支えることが期待されるプラットフォームへの信頼を損なう可能性があります。

“F5 BIG-IP Next for Kubernetesは、AI推論をシステム全体の課題として捉えます。ネットワーキング、負荷分散、セキュリティを、リアルタイムの状況に適応する統合データプレーンに集約します。これにより、需要の増加に伴って推論プラットフォームを拡張しても、安定性を維持できます。”

AIプラットフォームの本番環境への移行が進む中、多くの組織が、GPUの処理能力を限界まで引き出すことが必ずしも解決策にはならないと認識し始めています。管理されていないトラフィック、負荷の偏り、急激な需要の増加により、使用率の上昇時にGPUの動作が不安定になる可能性があります。復旧には時間がかかることが多く、長時間にわたって処理能力を利用できなくなる場合もあります。また、負荷が繰り返しかかることで、運用リスクは時間の経過とともに高まります。

GPUへの投資額が数千万ドル規模に達する場合、こうした事象は単なる技術上の不都合ではなく、ビジネス上の問題となります。

そのため、AIの効率性に関する議論では、トークンが話題になることがよくあります。

簡単に言えば、トークンとは、AIモデルが処理または生成するテキストの単位です。トークンは、単語の一部、単語全体、句読点などを表します。ユーザーがプロンプトを送信し、AIシステムが応答を生成すると、トークンが1つずつ生成されます。一定時間内に生成されるトークン数は、AIプラットフォームがどれだけ有用な処理を実行しているかを直接示す指標です。

トークンが重要なのは、インフラストラクチャのパフォーマンスを実際の成果に結び付ける指標だからです。1秒あたりのトークン数が多いほど、同じGPU投資でより多くのユーザーに対応し、応答を高速化して、収益拡大の可能性を高められます。そのため、経営層ではトークンがAIの効率性を端的に示す一般的な指標となっています。

しかし、トークンは根本原因ではなく、結果です。

トークンはインフラストラクチャの健全性に左右される

推論トラフィックは、従来のアプリケーショントラフィックとは大きく異なる特性を示します。リクエストは長時間継続し、バースト性があり、消費するGPU時間も大きく変動します。理論上はトラフィックが均等に分散されていても、実際には偏りが生じると、GPUはアイドル状態と過負荷状態を行き来します。

負荷が継続すると、こうした不均衡はさらに深刻化します。キューが増大し、レイテンシが急上昇します。再試行は負荷を軽減するどころか、かえって増大させます。本番環境では、このような状態からの復旧は、単にプロセスを再起動するだけでは済まないことがほとんどです。GPUのリセットには、多くの場合、ドライバーの再読み込み、ファブリックの再初期化、スケジューラーの整合性回復、アプリケーションのウォームアップが伴います。その間、推論処理能力は実質的に利用できません。

実環境では、この復旧時間は秒単位ではなく、運用に大きな影響を及ぼすほどの長さになります。クラスタ全体で容量が一部失われただけでも、サービスの可用性が長時間低下する可能性があります。特に、ワークロードの再分散と再ウォームアップが必要な場合は、その影響が長引きます。

多くのチームにとって重要なのは、トークンスループットがインフラストラクチャの挙動に左右されるという認識です。GPUが価値の創出に時間を費やせるか、それとも過負荷からの復旧に時間を取られるかは、安定性とトラフィック制御によって決まります。

推論効率を持続させるには、インフラストラクチャの課題への対応が必要

実環境でのAI導入から得られた最も明確な教訓の1つは、ピーク時のベンチマークでは本番環境のパフォーマンスを十分に予測できないということです。重要なのは、実際の負荷条件下で持続的かつ予測可能な動作を実現することです。

本番環境向け推論プラットフォームの成否を左右するのは、以下の能力です。

  • ホットスポットを発生させることなく、不均一で突発的な需要に対応する
  • トラフィック量が変動しても、一貫したレイテンシを維持
  • 短時間のベンチマーク実行時だけでなく、長時間にわたって安定したスループットを維持

管理された環境でのパフォーマンステストでは、NVIDIA BlueField 3 DPU上で稼働し、そのアクセラレーションを活用するF5 BIG-IP Next for Kubernetesにより、インフラストラクチャの動作が推論効率に直接影響することが示されました。CPU、GPU、ホスト、ネットワークのリアルタイムテレメトリに基づいてトラフィックを制御することで、このプラットフォームは従来のデータプレーン方式と比べて測定可能な向上を実現しました。

DPUはこうした効果をさらに高めますが、その基盤となるトラフィック管理のメリットは、幅広いAI推論環境に適用できます。

これらのテストでは、AI推論ワークロードにおいて、トークンスループットが最大47%向上し、最初のトークンが生成されるまでの時間が最大86%短縮され、エンドツーエンドのレイテンシが最大45%低減しました。

これらの改善は、モデルやGPUハードウェアを変更することなく実現しました。インフラストラクチャ全体でトラフィックの分散と管理を改善した結果、負荷がかかった状態でもGPUがより安定して動作できるようになりました。

実際には、これらの改善により、処理が停滞するリクエストや、負荷を増幅させる再試行が減少し、不安定な状態からの復旧ではなく、有用な推論処理により多くの時間を充てられるようになります。

これらの結果は、大規模AI推論に関するF5の検証済みパフォーマンステストに記載されています。このテストでは、持続的な負荷がかかる状況で実際の推論トラフィックを評価し、複数のデータプレーン実装におけるトークンスループット、最初のトークンが生成されるまでの時間、エンドツーエンドのレイテンシを測定しました。この結果は、重要な点を裏付けています。AIの持続的なパフォーマンスには、ピーク時のベンチマークだけでなく、インフラストラクチャの動作が決定的な役割を果たします。

要点は明快です。インテリジェントなトラフィック管理は、不安定化が発生してから対処するのではなく、未然に防ぐことで、持続的なトークンスループットを向上させます。AIを大規模に運用する組織にとって、これはダウンタイムの回避、GPU寿命の保護、さらに非効率性や復旧対応によって失われかねない数百万ドル相当のインフラ価値の維持に直結します。

インテリジェントなトラフィック管理がGPUの動作をどう変えるか

多くのAIプラットフォームでは、推論トラフィックの分散に、依然として静的ルールや単純なラウンドロビン方式を使用しています。これらの方式は、すべてのリクエストが同様に動作し、負荷がかかった際にすべてのGPUが同じように応答することを前提としています。しかし、大規模な環境では、この前提はすぐに成り立たなくなります。

推論リクエストには、短時間で完了するものもあれば、GPUリソースを長時間消費するものもあります。リアルタイムのシステム状況を考慮せずにトラフィックを分散すると、一部のGPUに負荷が集中する一方で、十分に活用されないGPUも生じます。この不均衡は、本番AI環境が不安定になる最も一般的な根本原因の1つです。

F5 BIG-IP Next for Kubernetesは、静的な想定ではなくリアルタイムのテレメトリに基づいてトラフィックを制御することで、この課題に対処します。CPU、GPU、ホスト、ネットワークのシグナルを継続的に評価し、余剰キャパシティがある場所と負荷が高まりつつある場所を把握します。NVIDIA BlueField DPUに導入すると、このロジックはトラフィックの経路上で実行され、ネットワーク処理とセキュリティ処理をホストCPUからオフロードすることで、共有リソースの競合を軽減します。

その結果、応答が即座に高速化するだけでなく、長期的により安定した動作が得られます。GPUは過負荷状態からの復旧に費やす時間が減り、有用な処理により多くの時間を充てられます。この一貫した動作により、ハードウェアを不安定な動作領域に追い込むことなく、高いトークンスループットを持続できます。

安定性によるGPU投資の保護

インフラストラクチャチームやプラットフォームチームにとって、インテリジェントなトラフィック管理がもたらす特に大きな成果の1つは、制御性の向上です。過負荷状態を防ぐことで、復旧の長期化を招く事象が発生する可能性を抑え、インシデント対応に伴う運用負荷を軽減できます。

さらに重要なのは、安定性が設備投資を守ることです。最新のAIクラスターでは、導入済みのGPUキャパシティが数百万ドル規模に達することも少なくありません。わずかな非効率や復旧作業の繰り返しでも、数十台から数百台のGPUが継続稼働する環境全体では、影響が急速に積み重なる可能性があります。

インテリジェントなトラフィック管理は、インフラストラクチャに負荷をもたらす複数の根本原因と、それに伴うビジネスへの影響への対処に役立ちます。

  • GPUのホットスポットや過負荷状態を引き起こす不均一なトラフィック分散
  • 復旧サイクルを引き起こし、推論処理能力をオフラインにする飽和イベント
  • ユーザー体験とサービスコミットメントに影響を及ぼす可用性の低下
  • 復旧やインシデント対応にチームのリソースが割かれることによる運用負荷の増大
  • 時間の経過に伴うGPUの信頼性と予測可能性の低下を加速

大規模事業者の多くが複数年の減価償却サイクルをすでに計画しているのは、GPUがすぐに故障するからではなく、継続的な負荷によって実用上の耐用期間が短くなるためです。こうした状態を防ぐことで、稼働時間の向上とGPU投資の長期的な収益性向上の両方につながります。

同じ検証済みのパフォーマンステストからも、この広範な変化が明らかになっています。短時間のピークパフォーマンスを最適化するのではなく、負荷がかかった状態で効率を持続させることに重点が移っています。トラフィックの挙動を平準化し、過負荷状態を回避することで、プラットフォームは長期にわたって予測可能なパフォーマンスを維持しながら、トークン出力を向上できます。

本番環境に対応する堅牢なAIプラットフォームの構築

AIが基盤インフラとなるにつれ、成功の基準は他のミッションクリティカルなシステムとますます共通するようになります。信頼性、予測可能性、コスト管理は、純粋なパフォーマンスと同じくらい重要です。

BIG-IP Next for Kubernetesは、AI推論をシステム全体の課題として捉えます。ネットワーキング、負荷分散、セキュリティを、リアルタイムの状況に適応する統合データプレーンに集約します。これにより、需要の増加に伴って推論プラットフォームを拡張しても、安定性を維持できます。

トークンは依然として重要な指標です。ただし、出発点ではなく、適切に運用されたシステムから得られる目に見える成果です。真の効果は、稼働時間やハードウェアの寿命を犠牲にすることなくパフォーマンスを向上できるよう、トラフィックをインテリジェントに管理することで生まれます。

本番環境向けの構築に取り組むAIプラットフォームチームにとって、最終的に成否を左右するのは、持続的なパフォーマンスです。インテリジェントなトラフィック管理により、GPUの安定性と可用性、生産性を長期にわたって維持し、持続的なパフォーマンスを実現できます。

詳しくは、ホワイトペーパー「F5 BIG-IP Next for Kubernetesで実現する大規模AI推論の検証済みパフォーマンス」をご覧ください。

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著者について

Scott Calvet
Scott Calvetプロダクトマーケティング担当ディレクター | F5

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