F5、NIST準拠のPQC暗号サポートを拡充

F5 ADSP | 2026年3月11日

量子コンピューティングは、かつてSF映画の中だけの話のように思われていました。しかし今では、現実的かつ喫緊の課題として、サイバーセキュリティの世界を大きく変えつつあります。理論から実用へと急速に移行するなかで、そこには機会とリスクの両方が生まれています。

セキュリティ責任者にとって最大の懸念は明白です。現在利用している暗号技術が、将来の量子コンピューティング能力を持つ攻撃者に必ずしも対抗できるとは限りません。

そして、攻撃者もそのことを認識しています。

多くの攻撃者はすでに暗号化データを収集し、量子コンピューターが現在の公開鍵アルゴリズムを破れる規模に達した時点で復号しようとしています。この「今収集し、後で復号する」という脅威に備えるため、耐量子暗号への対応は5年後ではなく、今すぐ優先すべき課題です。

“PQCハイブリッド暗号と量子セキュアなVPNトンネリングを組み合わせることで、組織はシステムの再設計や中断を伴うことなく、アプリケーションとネットワークトラフィックの両方を保護できます。”

組織が将来に向けて確信を持って前進できるよう、F5は最新のF5 BIG-IPリリースで、2つのハイブリッド耐量子暗号(PQC)方式、SecP256r1ML-KEM-768とSecP384r1ML-KEM-1024のサポートを追加しました。

どちらのアルゴリズムも、米国国立標準技術研究所(NIST)がFIPS 203に基づいて承認したパラメーターを使用しており、アプリケーションの再設計やパフォーマンスの低下を伴うことなく、標準に準拠した耐量子保護を容易に導入し始めることができます。

しかし、量子セキュリティへの対応はこれだけではありません。今回のリリースでは、F5が耐量子セキュリティに対応したVPNトンネリング機能を提供することで暗号技術のモダナイゼーションをさらに推進し、耐量子時代における暗号化ネットワークトラフィックのリスクに対処するために必要なツールを組織に提供します。

今、PQCが重要な理由

デジタルインフラストラクチャを保護する暗号技術の大半は、Rivest-Shamir-Adleman(RSA)や楕円曲線暗号(ECC)をはじめとする公開鍵暗号方式であり、従来型コンピューティングを前提に設計されています。量子コンピューターは、その数学的前提を根本から変えます。十分な規模に達すれば、現在のマシンとは比較にならないほど短時間で、今日の公開鍵暗号を破る可能性があります。

これは、セキュリティが極めて重要な環境に、差し迫った課題をもたらします。

  • 医療記録や企業秘密など、長期にわたって保持されるデータや価値の高いデータは、すでに脅威にさらされている可能性があります。現在暗号化されていても、将来、攻撃者に復号される可能性があります。
  • 規制対象業界は、コンプライアンス対応への圧力に直面しています。政府や業界による多くの規制や要件を受け、組織ではすでに耐量子安全性を確保するための計画策定が進められています。
  • モダナイゼーションは不可欠です。組織には、現在の脅威から保護できる十分な強度と、将来の標準や課題に合わせて進化できる柔軟性を備えた暗号化が必要です。

そこで、ハイブリッドPQCが現実的な橋渡し役となります。

移行におけるハイブリッド暗号の位置付け

環境全体を新しいPQCアルゴリズムへ一気に移行することは、現時点では現実的ではありません。標準は成熟の途上にあり、相互運用性も進化を続けています。また、ほとんどの組織にとって、アプリ、デバイス、アーキテクチャの中断は許容できません。

ハイブリッドPQCなら、この課題を解決できます。

ハイブリッド暗号は、ECCなどの実績ある従来型暗号と、Module-Lattice-Based Key-Encapsulation Mechanism(ML-KEM)などの新しい耐量子アルゴリズムを組み合わせることで、現在の脅威と将来の量子技術を利用した脅威の両方に対するセキュリティを提供します。SecP256r1ML-KEM-768とSecP384r1ML-KEM-1024により、NISTに裏付けられた2層の鍵確立を利用できます。この場合は、次のようになります。

  • 互換性と継続性を確保するECC(SecP256r1およびSecP384r1)
  • 長期的な耐量子性を実現するML-KEM(ML-KEM-768およびML-KEM-1024)

一方のレイヤーが侵害されても、もう一方が引き続き鍵交換を保護します。次のように考えると分かりやすいでしょう。ハイブリッドPQCは、シートベルトを着用し、さらにエアバッグも備えるようなものです。ハイブリッドPQCを採用すれば、未知の領域へ一足飛びに踏み込むことなく、非常に実用的かつ低リスクな方法で移行を開始できます。大幅な変更を伴わずに、量子コンピューター時代に対応するセキュリティを実現します。

F5の新しいハイブリッドPQCサポートがもたらすもの

F5の量子時代へのアプローチは、理論上の準備ではなく、実環境への導入を重視しています。NIST承認済みのハイブリッドPQC暗号スイートを、F5 Application Delivery and Security Platform (ADSP)の重要なコンポーネントであるBIG-IPに直接統合することで、お客さまは量子安全暗号を最小限の負担で導入し始めることができます。

特に注目すべき点は次のとおりです。

  • 新たに台頭する量子脅威に対する保護を強化。これらのハイブリッド暗号は、「今収集し、後で復号する」攻撃によって生じるセキュリティギャップの解消に役立ちます。セキュリティチームは、量子コンピューティングが実用可能になる何年も前から、暗号セキュリティ態勢を強化できます。
  • プラットフォームに組み込まれたコンプライアンス。これらのハイブリッド暗号はNISTのPQC標準に準拠し、FIPS 203の要件を満たしているため、規制当局による監視が強まる中で対応を進める組織を支援します。
  • エンタープライズグレードのパフォーマンスを備えたシームレスな導入。 ハイブリッドPQCはF5 ADSPに直接実装されているため、アプリやシステムを再設計することなく活用でき、BIG-IPに期待される信頼性の高いハイパフォーマンスなエクスペリエンスも維持できます。

最新のBIG-IPリリースでは、耐量子保護をVPNトンネルに拡張し、アプリのセキュリティをさらに強化しています。PQCハイブリッド暗号と量子セキュアVPNトンネリングを組み合わせることで、システムの再設計や中断を伴わずに、アプリとネットワークトラフィックの両方を保護できます。この統合アプローチにより、量子技術を利用した脅威に対する強固な防御を維持しながら、暗号化通信と重要インフラ全体に量子対応策を導入しやすくなります。

連邦政府機関が特にメリットを得られる理由

すべての組織が量子脅威に備える必要がありますが、米国連邦政府の環境では、特に緊急性の高い対応が求められています。機密データや価値の高いミッションデータは長期間にわたって利用されるため、国家やその他の攻撃者が将来の復号を目的に狙う情報に該当します。米国連邦政府の指令ではPQCへの移行期限が定められており、対応の緊急性はさらに高まっています。2030年までに、米国連邦政府機関はPQCへ移行する必要があり、2035年までには国家安全保障システムを完全に耐量子化する必要があります。

F5によるSecP256r1ML-KEM-768およびSecP384r1ML-KEM-1024のハイブリッドPQCサポートにより、政府機関は、稼働時間を損なったり重要なシステムを中断したりすることなく、標準に準拠し、FIPS要件を満たす方法で、その移行を直ちに開始できます。

長期的な暗号アジリティを実現する設計

量子コンピューティングへの対応は、一度のアップグレードで完了するものではなく、複数年にわたる取り組みです。アルゴリズムや標準が変化し続ける中、F5は暗号アジリティを考慮してBIG-IPを設計しました。NISTとの緊密な連携を維持することで、コストのかかる移行や運用リスクの増大を伴わずに、変化する環境へ組織が適応できるようにしています。

確信を持って前進

量子時代は、多くの予想を上回る速さで到来しつつあります。F5は、最新のNIST準拠ハイブリッドPQC暗号と量子セキュアVPNトンネリングをサポートし、耐量子暗号への実用的かつ高性能な移行手段を提供します。

量子時代がセキュリティ担当者にとって何を意味するのか、さらに詳しく知りたい方は、F5のエキスパートとForresterの知見を紹介するオンデマンドウェビナーをご覧ください。

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著者について

Rachael Shah
Rachael Shahシニアプロダクトマーケティングマネージャー | F5

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