テクノロジーが急速に進化する今日、AIの導入と運用は、企業にとって重要な差別化要因となっています。企業がAIを活用して意思決定の質と効率を高めたり、AIによって差別化された製品を開発したりする中、AIファクトリーが基盤となるモデルとして台頭しています。その中核を担うのが、7つのAIビルディングブロックの1つである検索拡張生成(RAG)です。RAGにより、AIはコンテキストを踏まえた、より正確でタイムリーな出力を生成できます。
AIファクトリーシリーズの以前の記事では、AIファクトリーを大容量かつ高性能なトレーニングと推論の要件に対応する、ストレージ、ネットワーク、コンピューティングへの大規模な投資と定義しました。本記事では、F5が定義したAIビルディングブロックのうち、RAGとRAG Corpus Managementの2つについて解説します。
AIファクトリーを理解する
従来の製造工場と同様に、AIファクトリーは、サーバー、GPU、DPU、ストレージを緻密に連携させたインフラストラクチャを通じて、AIの出力やモデルを生成できるよう設計されています。AIファクトリーはトレーニングと推論を支え、AIアプリケーションを大規模に開発するうえで重要な役割を果たします。さらに、RAGを組み込んで出力の文脈適合性を高めることで、AIファクトリーの真の可能性を引き出せます。
検索拡張生成(RAG)とは
本題に入る前に、検索拡張生成について定義しておきましょう。RAGは、独自データを取り込んでAIモデルを補完し、コンテキストを考慮したAI出力を生成する技術です。アプリケーションのデプロイが分散化し、ハイブリッド環境やマルチクラウド環境にまたがってホストされるようになる中、企業のデータはさまざまな場所に分散しています。データをAIに活用して戦略的優位性を引き出したい組織にとって、関連データを大規模言語モデル(LLM)などのAIモデルに接続し、その入力をどのように拡張するかが課題となります。この課題を解決するため、組織はRAGを活用し、AIモデルから分散したデータサイロへ安全にアクセスできる経路を構築しています。これにより最新情報にアクセスできるため、適時性とコンテキスト認識に優れた、より正確な出力が可能になります。RAGがなければ、ファインチューニング済みのAIモデルであっても最新情報にはアクセスできません。情報は頻繁に変化し、トレーニングの完了直後に更新されることもあります。
“RAGは、独自データを取り込んでAIモデルを補完し、コンテキストを考慮したAI出力を生成する技術です。”
具体例としては、画像認識を利用する自動運転車や、リクエストに関連するコンテキストが不足しているためにハルシネーションを起こしたり、推測したりするLLMが挙げられます。
自動運転車が歩行者や自転車、ほかの自動車が行き交う道路を安全に走行するには、推論に車両の位置情報と、刻々と変化する周辺環境に基づくリアルタイムデータを含める必要があります。LLMについては、カスタマーサポート用チャットボットを例にすると、変更ログ、ナレッジベース、システムステータス、テレメトリなどの製品情報に、サポートチケット、購入履歴、顧客プロファイルなどの顧客固有の情報を組み合わせて利用することで、LLMの汎用的な応答を価値ある出力へと変えることができます。

ハイブリッド環境やマルチクラウド環境がますます複雑化する一方で、ストレージ環境は各所に分散し、サイロ化が進んでいます。F5では、この現象を「ball of fire」と呼んでいます。
AIファクトリー向けRAG
AIファクトリーにおけるRAGは、追加のコンテキストをベクトルデータベースやコンテンツリポジトリから取得し、それを活用してコンテキストを拡充した応答を生成することで、基盤AIモデルの基本的な推論能力を高めます。AIファクトリー内では、RAGのオーケストレーションレイヤーがAIモデルと拡張サービス間の複雑なやり取りを管理し、補足データをAIワークフローにシームレスに統合します。
たとえば、前述のカスタマーサポートのシナリオでは、RAGは関連するさまざまなデータベースや情報源にアクセスし、そのデータを取り込むことができます。これにより、関連性の高いAI出力が得られます。RAGをAIファクトリーのフレームワークに統合することで、企業は推論応答の品質と適時性を高め、より効果的な意思決定と業務効率の向上につなげることができます。

大規模AIインフラストラクチャの成功に必要な7つのAIビルディングブロックの1つであるRAGに焦点を当てた、F5のAIリファレンスアーキテクチャ。
AIファクトリー向けRAGコーパス管理
RAG Corpus Managementは、RAGを使用した推論の提供に不可欠なデータ取り込みと前処理に重点を置いています。コンテンツをRAG呼び出しに最適な状態に整えるため、データの正規化、トークン化、埋め込み、ベクトルデータベースへの格納など、一連の処理を行います。
AIファクトリーでは、まずさまざまなデータ形式を正規化し、一貫性のある構造化データセットを作成します。次に、埋め込みを生成して、AIモデルがクエリ可能な形式にデータを変換します。準備したデータをベクトルデータベース、ナレッジグラフ、コンテンツリポジトリに格納することで、推論時にリアルタイムで容易に取得できるようにします。RAG Corpus Managementは、データをクリーンかつ構造化された取得可能な状態に保つことで、AI出力全体の有効性と精度を高めます。このプロセスは、高品質でコンテキストが充実したAI応答を維持したい企業にとって不可欠です。

RAG Corpus Managementは、AIアーキテクチャを成功に導くためにF5が定義した7つのAI構成要素の1つです。
RAGはAIファクトリーにのみ適用できるのでしょうか?
RAGはAIファクトリーの中核的な構成要素ですが、AIモデルの導入規模を問わず必要です。基盤AIモデル(GPT、Llamaなど)は公開情報を基にトレーニングされているため、基盤モデルを導入するだけでは、同じモデルを導入している他の組織に対して十分な競争優位性を得られません。AIの導入規模にかかわらず、あらゆる組織がリクエストを自社データで補完するには、RAGを介して独自データや非公開データを統合することが不可欠です。たとえば、カスタマーサポート用チャットボットでは、有用なソリューションを提供するために、LLMを活用したサポートアプリが製品や顧客に固有の情報へアクセスできる必要があります。モデルをトレーニングまたはファインチューニングする場合でも、より正確な出力を得るには、絶えず変化するデータへのアクセスが必要です。
RAGの活用を支えるセキュアなデータハイウェイの構築
組織がイノベーションと業務効率の向上を目指してAIへの投資を続ける中、AIファクトリーにおけるRAGの重要性は極めて高まっています。RAGは、コンテキスト認識、精度、適時性を高めることで、AIモデルがより関連性と信頼性の高い出力を生成できるようにします。データサイロとAIファクトリーを安全に統合したい企業にとって、F5 Distributed Cloud Network Connectは現代のデータハイウェイとして機能します。企業独自のデータが保管されている拠点を安全に接続し、アクセスを制限するとともに、ネットワークを簡素化し、ゾーンやリージョンをまたぐデータの保存と移動を実現します。
F5のAIへの取り組みは、これにとどまりません。F5があらゆる環境でAIアプリを保護し、提供する方法をご覧ください。
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著者について

Hunter Smitは、F5でソリューションおよび戦略担当のプロダクトマーケティングシニアマネージャーを務めています。AIインフラストラクチャやアプリケーションセキュリティを含むF5ポートフォリオ全体のソリューションマーケティングを統括し、新興のAIデータデリバリー市場へのF5の参入を推進しています。Whitworth University School of Businessの諮問委員会メンバーであり、プロダクトマーケティングの非常勤講師も務めました。Whitworth UniversityでMBAおよび経営学の学士号を取得しています。
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