F5 BIG-IP v21.0、S3ワークフロー向けAIデータ配信と取り込みを強化

F5 ADSP | 2025年11月18日

Amazon S3は、現代のインフラストラクチャのあり方を変えました。オブジェクトストレージをコンピューティングから分離することで、S3はアプリケーションチームに、シンプルなAPIで利用できる耐久性とコスト効率に優れた容量を提供しました。さらに重要なのは、ある場所で作成されたデータを別の場所で利用するための中立的な基盤を実現したことです。このモデルはAIパイプラインの中核となっています。トレーニングセットはバケットに格納され、ファインチューニング用データセットはバージョン管理されたプレフィックスを通じて処理され、検索拡張生成(RAG)用のナレッジコーパスはインデクサーによって終日取得されます。

AI環境の規模が拡大するにつれ、アプリケーションをS3互換オブジェクトストアに接続するだけでは不十分になります。企業には、データ移動の予測可能性、高速性、セキュリティを確保するデリバリーレイヤーが必要です。まさにこの課題に対応するのが、AIデータデリバリーです。適切な基盤ポリシーとサイト間のレジリエンスにより、必要なデータをオブジェクトストアへ安全に転送し、AIモデルファウンドリのワークフローへ確実に配信します。これにより、トレーニング、ファインチューニング、RAGの各ワークフローを予定どおりに進められます。ストレージの前段に配置するアプリケーションデリバリーコントローラー(ADC)は、ビジネス面でも技術面でも不可欠です。急激な負荷からオブジェクトストアを保護し、スループットを平準化してクラスターの信頼性を確保するとともに、ハイブリッドマルチクラウドのS3環境全体でガバナンスを一元化する制御ポイントとなります。

データストアの前段にF5 BIG-IPを配置する理由

今日のAIストレージは、かつてのWebトラフィックをはるかに激しくしたようなものです。取り込みは突発的に集中し(並列書き込み、マルチパートアップロードなど)、読み取りはランダムに発生し、メンテナンスも継続的に必要です(ノードの再構築、コンパクション、階層化など)。こうした予測困難なパターンに対応するには、アプリケーションを基盤となるストレージから分離し、中断やエンドポイントの変動からワークロードを保護するアーキテクチャが必要です。この専用デリバリーティアがなければ、企業は次の8つの一般的な問題に直面します。

  1. ローカルレジリエンスの課題:単一のノードで処理速度が低下したり再構築が行われたりすると、ジョブのスループットが低下する可能性があります。F5 BIG-IPは、カナリアキーに対するS3 HEAD/GETチェックなどの対象を絞ったヘルスモニター、ポリシーベースの負荷分散、コネクションドレイニングにより、この問題を軽減し、メンテナンス中も長時間の転送を中断なく継続できるようにします。
  2. グローバルレジリエンスの手動対応:F5 BIG-IP DNSは、健全性、近接性、ビジネスポリシーに基づいて、クライアントを最適なサイトへ自動的にルーティングします。アプリケーションエンドポイントを変更することなく、クラスターまたはリージョンのフェイルオーバーをシームレスに処理します。
  3. オブジェクトおよびメタデータレベルのサービス品質とレート制限:BIG-IPは、バケット、オブジェクトタイプ、サイズ、タグに基づいてトラフィックを検査し、識別します。優先度の高いリクエストを優先して、優先度の低いリクエストのレートを制限することで、輻輳または過剰収容状態にあるネットワークでのタイムアウトや再試行を回避します。
  4. リスクを伴うアップグレード:ストレージソフトウェアのアップグレードにより、ワークフローが中断する可能性があります。BIG-IPは、影響を受けるプールからトラフィックをドレインし、ヘルスチェックに合格するまで安定したシステムバージョンにトラフィックを一時的に固定することで、安全なブルーグリーンアップグレードまたはローリングアップグレードを可能にします。
  5. 輻輳するレプリケーショントラフィック:需要が高まる時間帯には、リージョン間の同期やクラスターレプリケーションでボトルネックが発生する可能性があります。BIG-IPはトラフィックの優先順位付けとシェーピングを行い、レプリケーション処理がAIモデルのワークロードのパフォーマンスを妨げないようにします。
  6. 一貫性のないTLS構成:BIG-IPは、オフロード、再暗号化、またはパススルーを処理することで、TLS管理を一元化します。必要に応じて、一貫した暗号スイートポリシー、Perfect Forward Secrecy(PFS)、mTLSを適用することで、ストレージ構成を簡素化し、F5 rSeriesおよびF5 VELOSのSSLアクセラレーションによる透過的なスケーリングを可能にします。
  7. 耐量子暗号(PQC)による防御:BIG-IPは、転送中のPQCをサポートし、「今収集し、後で復号する」攻撃など、将来の量子コンピューターによる攻撃からデータを保護することで、米国国立標準技術研究所(NIST)およびEUデジタル・オペレーショナル・レジリエンス法(DORA)の推奨事項への準拠を可能にします。
  8. S3プロトコル防御: BIG-IPは、インジェクション、権限昇格、バケットの乗っ取り、認証情報や署名付きURLの再利用、アカウントの乗っ取りなどのS3プロトコル攻撃を検知し、バックエンドに到達する前にブロックします。

S3データ配信プロファイルがBIG-IP v21.0に登場

BIG-IP version 21.0では、仮想サーバーを本番環境対応のS3フロントドアへ容易に移行できるよう設計されたS3 TCP/TLSプロファイルが導入されます。これらのプロファイルは、高帯域幅パス向けのTCP設定を提供し、マルチパートアップロードと再試行に対応できるようHTTP/S3の動作を最適化するとともに、厳格なメソッド許可リストやオプションのmTLSなどのセキュリティガードレールを実装します。これにより、クラスターのセットアップからAIパイプラインの本格稼働までの移行が効率化され、セットアップ時間が数日から数分に短縮されます。

AIデータ配信の実践

以下のデモでは、BIG-IPがセットアップの迅速化にとどまらず、継続的な運用価値をもたらす仕組みを紹介します。S3データ配信をインフラストラクチャの変更から切り離し、プログラム可能なポリシーによって動的に制御し、クラスターへの負荷から保護する方法を示します。これらの例を通じて、専用の配信レイヤーがAIパイプラインの予測可能性、拡張性、セキュリティの維持にどのように役立つかをご確認いただけます。

デモ1:ライフサイクルの抽象化


このデモでは、ストレージ環境が進化しても、アプリケーションの接続を維持し、中断なく稼働できる仕組みをご紹介します。エンドポイントを抽象化することで、アプリケーションを再構成することなく、クラスターのライフサイクル変更、ベンダー変更、バージョンアップグレード、クラスター拡張が発生してもワークロードのレジリエンスを維持できます。また、オブザーバビリティにより、パフォーマンスとコンプライアンスに関するインサイトを可視化します。

デモ2:データプレーンのプログラマビリティ


ここでは、データプレーンレベルでポリシーとルーティングを動的に調整する方法をご紹介します。この柔軟性により、企業はきめ細かな制御を適用し、ビジネスニーズに応じてトラフィックパターンを調整できるほか、リスクを管理しながら環境間を移行できます。

デモ3:ホットスポットの防止


最後のデモでは、高度な監視とインテリジェントな負荷分散によってホットスポットを軽減し、高負荷時のクラスターを保護する方法を紹介します。障害を検出し、過負荷状態のノードがワークフローに支障をきたす前に回避することで、企業は安定したスループットを維持し、重要なAIパイプラインを保護できます。

実務担当者向けの設計上の注意点

S3互換ストレージクラスターは、スケーラブルなAI、機械学習、データ駆動型アプリケーションを支える一方で、ホットスポットの発生、ノードのメンテナンス、トラフィックパターンの変化、高負荷時のレジリエンス確保といった固有の課題を伴います。BIG-IPは、こうした課題に効率的に対処するため、柔軟でプログラム可能なトラフィック管理を提供します。以下では、S3環境向けにBIG-IPを最適化し、スケーラビリティ、パフォーマンス、メンテナンスの分離を実現するために不可欠な7つのベストプラクティスを紹介します。

  1. インテリジェントな負荷分散アルゴリズムの活用:トラフィックを均等に分散するラウンドロビン方式の負荷分散は、S3クラスター内にホットスポットを生じさせる可能性があるため、避けてください。動的比率や最小接続数などの適応型アルゴリズムを使用し、ノードの健全性とワークロード容量に基づいてトラフィックをインテリジェントに分散することで、予測可能なパフォーマンスを確保します。
  2. 柔軟なHAアーキテクチャを導入する:この構成では、メンテナンス作業をクライアントのワークロードから分離することで、最大限の耐障害性を実現しながらダウンタイムを防止します。アクティブ/アクティブ構成では、複数のBIG-IPデバイスでトラフィックを同時に処理できるため、継続的な可用性を確保し、負荷の高いワークロードのスループットを向上できます。
  3. 構成を自動化:自動化により、導入を迅速化し、スケーリングを簡素化するとともに、環境間で一貫した構成を維持する際の複雑さを軽減できます。BIG-IP Application Services 3 Extension(BIG-IP AS3)とBIG-IP Declarative Onboardingを使用して、BIG-IPのプロビジョニングと構成を自動化します。
  4. S3エンドポイント向けの高度なヘルスモニターを活用: カスタムヘルスモニターを有効にして、応答時間、エラー率、ノード容量の使用率など、個々のS3エンドポイントの可用性とパフォーマンスを確認します。BIG-IPは、パフォーマンスが低下したノードやオフラインのノードを迂回するようにトラフィックを自動的に再ルーティングできるため、メンテナンス中でもレジリエンスを確保し、ワークロードを中断なく継続できます。
  5. TCP/TLSの最適化によるデータスループットの向上:ウィンドウスケーリングや輻輳制御などのTCP設定を最適化し、大規模なAI/MLデータ転送のスループットを向上させます。BIG-IPのS3向けに調整されたTCPプロファイルはレイテンシを最小限に抑え、暗号化されたデータを安全かつ高速に配信します。
  6. データプレーンのプログラマビリティを活用してトラフィックをカスタマイズ: カスタムプログラミング機能により、トラフィックをきめ細かく制御し、S3ワークロード固有の要件に応じたパフォーマンスと柔軟性を確保できます。BIG-IPのイベント駆動型iRulesを使用すると、ヘッダー、メタデータ、または個々のノードのメンテナンス状況に基づいて、トラフィックを動的にルーティングできます。
  7. ローカリティを考慮したリクエストルーティングを有効化:ローカリティを考慮したルーティングポリシーを使用し、地理的な近接性やレイテンシーに基づいてストレージノードへのトラフィックを優先します。これにより、ネットワークのオーバーヘッドが削減され、S3クラスターに依存するグローバルに分散したワークロードの応答時間が短縮されます。

AIデータパイプライン専用の配信層

S3は汎用性と耐久性に優れたストレージを提供し、F5 BIG-IP version 21.0はストレージにAI向けの最上位の配信レイヤーをもたらします。これにより、脆弱なクライアントロジックやカスタムスクリプトに依存することなく、モデルのトレーニングやファインチューニングを継続し、RAGワークフローを実行できる高性能なデータパイプラインを実現します。BIG-IP v21.0は提供を開始しました。詳しくは、BIG-IP version 21.0発表ブログをご覧ください。また、本日公開のプレスリリースもぜひご確認ください。

F5のAIへの取り組みは、これにとどまりません。F5があらゆる環境でAIアプリを保護し、提供する仕組みをご覧ください。


共有

著者について

Hunter Smit
Hunter Smitプロダクトマーケティング担当シニアマネージャー | F5

Hunter Smitは、F5でソリューションおよび戦略担当のプロダクトマーケティングシニアマネージャーを務めています。AIインフラストラクチャやアプリケーションセキュリティを含むF5ポートフォリオ全体のソリューションマーケティングを統括し、新興のAIデータデリバリー市場へのF5の参入を推進しています。Whitworth University School of Businessの諮問委員会メンバーであり、プロダクトマーケティングの非常勤講師も務めました。Whitworth UniversityでMBAおよび経営学の学士号を取得しています。

Hunter Smitのその他のブログ記事
Mark Menger
Mark Mengerソリューションアーキテクト | F5

Mark MengerはF5のソリューションアーキテクトで、AIおよびセキュリティ技術のパートナーシップを専門としています。F5のAIリファレンスアーキテクチャの開発を主導し、安全で拡張性の高いAIソリューションの推進に取り組んでいます。グローバルソリューションアーキテクトおよびソリューションエンジニアとしての経験を持ち、F5のセキュアクラウドアーキテクチャに貢献したほか、分散型4階層アーキテクチャを共同開発しました。『Solving IT Complexity』の共著者でもあり、IT課題への対応に関する専門知識を有しています。以前はアプリケーション開発者やエンタープライズアーキテクトを務め、モダンアプリケーション、自動化、AI投資から得られる価値の早期実現に注力していました。

Mark Mengerのその他のブログ記事
Fouad Chmainy
Fouad Chmainyソリューションアーキテクト

Fouad Chmainyのその他のブログ記事

関連するブログ記事

F5 Distributed Cloud CDN:アプリを高速化、ワンクリックで有効化、コストを削減
F5 ADSP | 2026/04/15

F5 Distributed Cloud CDN:アプリを高速化、ワンクリックで有効化、コストを削減

F5 Distributed Cloud CDNなら、既存のセキュリティポリシーを変更することなく、ワンクリックでアプリを高速化し、オリジンの負荷とエグレスコストを削減して、コンバージョンを向上できます。

F5 BIG-IP v21.1を先行紹介:AIセキュリティ、PQC、ソフトウェアの機能強化
F5 ADSP | 2026/03/11

F5 BIG-IP v21.1を先行紹介:AIセキュリティ、PQC、ソフトウェアの機能強化

F5のBIG-IP v21.1がAIセキュリティとPQC対応への準備をどのように実現するかをご紹介します。

新しいAI AssistantでGuardrailsを高度化し、セキュリティを強化
F5 ADSP | 2025/09/22

新しいAI AssistantでGuardrailsを高度化し、セキュリティを強化

F5の新しいAI Assistantは、AI Guardrailのカスタムスキャナー機能に直接組み込まれています。この機能により、企業はGenAIを活用して、自社固有のユースケースや独自のリスクプロファイルに沿ったポリシーを作成し、標準搭載の保護機能を超える対策を実現できます。

EU AI Actへの準拠がより容易に
F5 ADSP | 2025/08/01

EU AI Actへの準拠がより容易に

AIシステム全体でEU AI Act、特に最も重大な禁止事項を運用に落とし込むには、どうすればよいのでしょうか。GenAIを導入するチームにとって、Article 5の「禁止されるリスク」に関する規定への対応には特有の課題があります。操作的な行為、生体認証による監視、ソーシャルスコアリングなど、最も重大な違反の多くは、従来のセキュリティツールでは容易に検出できないためです。F5のAI […]

AIレッドチームに欠けているものと、その改善方法
F5 ADSP | 2025/06/12

AIレッドチームに欠けているものと、その改善方法

レッドチーミングは長年にわたり、企業セキュリティの要となってきました。しかし生成AIに関しては、多くの組織が新たな脅威環境に旧来の手法を適用しています。静的なプロンプトテスト、単発の監査、CLIベースのツールでは明らかな不具合を発見できる場合もありますが、導入後の生成AIシステムの挙動が持つ現実世界の複雑さを捉えられることはほとんどありません。  […]

欧州連合の人工知能法
F5 ADSP | 2024/08/01

欧州連合の人工知能法

AIが国際ビジネスのあり方を変える中、欧州連合の人工知能法(EU AI Act)は、AI技術の進化における重要な節目となっています。27か国で法制化されたこの重要な規制枠組みは、AIの利用を予定するあらゆる企業や組織に影響を及ぼし、AIシステムのあり方を形作ることになります。[…]