このブログ記事は、AIデータデリバリーに関するシリーズの第4回です。
1960年代後半、The Bandのロックの名曲「The Weight」(「Take a load off Fanny …」)は、責任が次々と引き継がれ、やがて誰かが人知れず背負うべき以上の重荷を抱えることになるという、負担をめぐるシンプルな物語を描きました。
何十年もの間、ITインフラもほぼ同じように機能してきました。システムは可能な限り負荷を吸収し、負荷の偏りも「十分」として容認されることが少なくありませんでした。
AIは、その前提を根本から変えます。トレーニング、ファインチューニング、検索の各ワークロードでは、同時実行性とデータアクセスの負荷が極めて高くなるため、これまで表面化していなかった負荷処理に関する前提が重大なリスクとなります。最新のAI環境における負荷分散は、もはや公平性のためではありません。システムの破綻を防ぐために不可欠です。
AIが変えるロードバランシングの議論
AIワークロードでは、極端な読み取りファンアウト、突発的な同時アクセス、大容量オブジェクトへのアクセスといったパターンが生じ、ストレージアクセスに関する従来の前提が通用しなくなります。
“新たな設計パターンが登場しています。AIデータへのアクセスに使用するストレージの前段に、アプリケーションデリバリーコントローラー(ADC)を配置する構成です。F5 BIG-IPなどのソリューションは、各ワーカーが個別に接続するのではなく、取り込みトラフィックと読み取りトラフィックに対して、ポリシーで制御された単一のフロントドアを提供します。”
数千ものAIエージェントやデータ読み込みプロセスが、同じデータセットの取得、チェックポイントの書き込み、埋め込みの取得を同時に行う可能性があります。従来のストレージ直接接続型アーキテクチャは、これほど高度な並列処理を想定して設計されたものではありません。
その結果、ロードバランシングは単なる利便性のための機能ではなく、安定性を確保するための仕組みへと変わります。可用性を維持し、共有リソースを保護するとともに、高負荷時でもAIジョブを予測可能な形で実行し続けるために不可欠となります。
AIデータアクセスパターンの新たな実態
AIのデータアクセスを特徴づけるのは、データ量だけでなく、アクセスの同時性です。トレーニングジョブでは、多数のワーカーが同一のデータを同時に読み取ることがよくあります。ファインチューニングでは、チェックポイントへの書き込みが頻繁に発生します。検索拡張生成(RAG)では、推論時にバースト性があり、レイテンシーの影響を受けやすい読み取りトラフィックが加わります。
こうしたパターンにより、特定のストレージノード、ゲートウェイ、ネットワークパスに負荷が集中する、いわゆる「ホットスポット」が発生します。1つのコンポーネントが高負荷状態になると、その影響が局所的な範囲にとどまることはほとんどありません。処理速度の低下は急速に波及し、局所的な輻輳が、トレーニング処理の停滞、検索パフォーマンスの低下、さらにはジョブの完全な失敗につながります。
これにより、課題はコンピューティングのスケーリングから、大規模なデータへのアクセス方法へと変わります。
AI負荷で「何もしない」アーキテクチャが破綻する仕組み
従来、多くのチームはストレージへのアクセスにシンプルな手法を採用していました。クライアントはストレージエンドポイントに直接接続し、DNSラウンドロビンやクライアント側の再試行によって基本的な分散を行っていました。ストレージシステムは、内部でのデータ配置とレプリケーションを管理していました。
これらのアプローチは、トラフィックが比較的安定し、ファンアウトが限定的な場合には機能していました。しかし、AIワークロードでは、3つの理由から機能しません。第1に、リクエストの処理コストが比較的均一であることを前提としていますが、AIワークロードはこの前提に当てはまりません。第2に、障害処理と輻輳制御を、全体的な状況を把握できないクライアントやジョブに委ねています。第3に、バースト時には再試行や再接続によって、すでに高負荷のコンポーネントにさらなる負荷がかかるため、不安定性が増幅します。
何も対策を講じないことは、もはや中立的な選択ではありません。アーキテクチャ上のリスクです。
AIにおける基本的な負荷分散手法の限界
単純な負荷分散方式では、こうした弱点がすぐに顕在化します。ラウンドロビン方式は、各リクエストがバックエンドに同程度の負荷をかけることを前提としています。DNSベースの方式では、バックエンドの健全性や輻輳をリアルタイムで把握できません。ストレージシステムはトラフィックを監視できますが、損害が生じる前にトラフィックを制御したり調整したりすることはできません。
AI環境では、低速または過負荷状態のノードが1つあるだけで、数百のワーカーの処理が抑制される可能性があります。リトライストームは輻輳を緩和するどころか、さらに悪化させます。レイテンシの急増は予測不能になります。特に、応答時間がアプリケーションの動作に直接影響する検索ワークロードでは顕著です。これらは例外的なケースではなく、大規模AIシステムでは通常の運用条件です。
ストレージの前段で制御
新たな設計パターンとして、AIデータへのアクセスに使用するストレージの前段にアプリケーションデリバリーコントローラー(ADC)を配置する手法が登場しています。たとえば、F5 BIG-IPのようなソリューションでは、各ワーカーが個別に接続するのではなく、取り込みトラフィックと読み取りトラフィックに対して、ポリシーで制御された単一のフロントドアを提供します。
これにより、システムの動作は根本的に変わります。ストレージノードが過負荷になる前に、トラフィックを制御できます。過剰な負荷を生じさせるジョブや異常な動作をするジョブを分離できます。インテリジェントな分散により、ホットスポットの発生後に対処するのではなく、発生そのものを防ぎます。ノードの性能低下時やメンテナンス時、リバランス時にも、クリーンで予測可能なフェイルオーバーが可能になります。
AIワークロードでは、この制御レイヤーがトレーニング負荷の急増時やRAGクエリのバースト時にもクラスターの安定性を保護します。また、特定のコンポーネントに過剰な負荷が気付かないうちに集中することを防ぎます。
数十年にわたり、F5 BIG-IPなどのテクノロジーは、ミッションクリティカルなアプリケーション全体の負荷、健全性、障害を管理してきました。AIワークロードでは、同じ原則がデータレイヤーにも適用されます。そこでは、極めて高い同時実行性とバースト的なアクセスパターンにより、エラーの許容範囲がはるかに狭くなります。
AIワークロード向けの健全性を考慮したトラフィックステアリング
AIシステムでは、公平性よりも健全性が重要です。ストレージノードは、継続的な負荷によって劣化します。障害やリバランシングは例外的な事象ではなく、日常的に発生します。一方、AIジョブでは、部分的な可用性や一貫性のないパフォーマンスは許容されません。
ストレージノードやクラスター全体で稼働状態を考慮してトラフィックを振り分けることで、システムは継続的に適応できます。異常があるターゲットや過負荷状態のターゲットは自動的に回避されます。障害発生時やスケール変更時には、ジョブを再起動することなくトラフィックが再分散されます。輻輳を単に検出するだけでなく未然に防ぐため、復旧も迅速になります。
この機能は、大規模環境での信頼性の高いトレーニング、ファインチューニング、検索を直接支えます。
可視性という隠れた強み
ストレージの前段に制御機能を配置するメリットのうち、見過ごされがちなのが可視性です。ストレージチームは、AIジョブが実際にどのようにデータへアクセスしているかを十分に把握できていないことが少なくありません。ジョブ単位のレイテンシパターン、ワークロード別のエラー率、バースト時の読み取り増幅は、ストレージプラットフォームだけでは観測が困難です。
ADCを介してアクセスを一元化することで、チームはAIによるデータアクセスの挙動を可視化し、具体的な対応に活用できます。レイテンシーの分布、アクセスの集中箇所、不安定化の初期兆候をリアルタイムで把握できるようになります。AIワークロードの進化に伴い、こうした知見は、より適切なキャパシティプランニング、迅速なトラブルシューティング、十分な情報に基づくアーキテクチャ上の意思決定に役立ちます。
ストレージを変更せずにAIデータへのアクセスを保護
AIデータパイプラインには、より強固なガバナンスも求められます。ストレージエッジで認証、暗号化、レート制限を一元的に適用することで、ストレージプラットフォームやクライアントを変更することなく、機密性の高いトレーニングデータと推論データを保護できます。
このアプローチは、AIの同時実行数の増加に応じて自然に拡張できます。パフォーマンスを維持しながらデータフローを保護し、すべてのアプリケーションやジョブにセキュリティロジックを組み込む必要がありません。
AIの安定性を支えるレイヤーとしての負荷分散
AIデータの取り込みとアクセスが、今やインフラストラクチャの限界を左右しています。ストレージが不均一な負荷を問題なく吸収してくれると想定できる時代は終わりました。ロードバランシングはもはや任意ではなく、汎用的なものでもありません。
ストレージの前段に、稼働状態を考慮するインテリジェントな制御を配置することで、AIワークロードのスループット向上、レイテンシ低減、レジリエンス強化が可能になります。さらに重要なのは、ロードバランシングが安定性を支えるレイヤーとなり、同時実行数、規模、データ負荷がピークに達した場合でもAIシステムの稼働を維持できることです。
F5は、あらゆる環境でAIアプリケーションのデリバリーとセキュリティを実現
F5のAIデータ配信ソリューションの詳細については、AI Data Delivery and Infrastructure SolutionsのWebページをご覧ください。
F5のAIへの取り組みは、データ配信にとどまりません。F5があらゆる環境でAIアプリを保護し、配信する方法をご覧ください。
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著者について

Mark MengerはF5のソリューションアーキテクトで、AIおよびセキュリティ技術のパートナーシップを専門としています。F5のAIリファレンスアーキテクチャの開発を主導し、安全で拡張性の高いAIソリューションの推進に取り組んでいます。グローバルソリューションアーキテクトおよびソリューションエンジニアとしての経験を持ち、F5のセキュアクラウドアーキテクチャに貢献したほか、分散型4階層アーキテクチャを共同開発しました。『Solving IT Complexity』の共著者でもあり、IT課題への対応に関する専門知識を有しています。以前はアプリケーション開発者やエンタープライズアーキテクトを務め、モダンアプリケーション、自動化、AI投資から得られる価値の早期実現に注力していました。
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Griff ShelleyはF5のプロダクトマーケティングマネージャーで、ハードウェア、ソフトウェア、SaaSのアプリケーションデリバリーソリューションを専門としています。革新的なテクノロジーをお客さまの成功につなげることに情熱を注ぎ、グローバルおよびローカルのアプリケーションデリバリー、クラウドサービス、AIデータトラフィックインフラストラクチャの市場投入プロジェクトを推進しています。テクノロジー業界に入る前は高等教育機関でアカデミックアドバイザーを務め、Eastern Washington UniversityとAuburn Universityで学位を取得しました。
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