人類はこれまで、作業をより効率的に行い、人間の能力を拡張するために、常にテクノロジーを活用してきました。そろばんからAIに至るまで、テクノロジーは絶えず進化するツールであり、人類はそれを自らのために役立てる方法を学んできました。
効率化と規模の拡大にテクノロジーを活用することと同様に、デジタルトランスフォーメーションも実は新しいものではありません。その始まりは前世紀にさかのぼります。テクノロジーの進歩により、高度な数学的計算にとどまらない処理が可能なコンピューターが登場した時代です。それ以来、デジタルトランスフォーメーションは、明確に認識されてこなかったものの、テクノロジーの絶え間ない進化を広く推進する力となってきました。

1980年代半ば、エンタープライズアーキテクチャがフレームワークおよび正式な実践手法として採用されました。現在では多くのフレームワークが存在しますが、特に広く導入されているのは次の4つです。
- Zachman Framework
- FEAF(連邦エンタープライズアーキテクチャフレームワーク)
- DoDAF(米国国防総省アーキテクチャフレームワーク)
- TOGAF(The Open Group Architecture Framework)
各フレームワークは基本的に、アプリケーション、データ、テクノロジー、ビジネスという中核ドメイン全体で、ビジネスをテクノロジーによってどのように表現するかについて指針を示します。これらのフレームワークでは、エンティティ、関係、ポリシー、プラクティスを定義しており、企業がITスタックの基盤を構築し、発展させるうえで役立ってきました。
しかし、この20年間だけでも、これらのフレームワークの基盤となる多くの前提に、かつてない変化と課題がもたらされました。ユーザー、アプリケーション、データ、インフラストラクチャは、もはや固定的でも静的でもありません。これらはモバイル化、動的化し、多くの場合はリモートに存在します。テクノロジーの進化により、定型的な運用作業の負担を人からテクノロジーへ移せるようになり、実務の前提も変化しています。データの定義も、テレメトリ(運用データ)や、OTおよびIoTから得られる制御データを含むものへと拡大しています。
何よりも重要なのは、ビジネスそのものが変化したことです。データ入力からデジタル体験への移行を成し遂げた企業は今、デジタルビジネスへの転換という大きな変化を目前にしています。
これは大きな変化です。テクノロジーの活用は、もはやビジネスを「支援する」だけのものではありません。今や、ビジネスそのものではないにせよ、ビジネスの一部であることは明らかです。
しかし、企業が半世紀近くにわたって依存してきたエンタープライズアーキテクチャは、デジタルビジネスや、テクノロジーによる業務の強化を支援するようには設計されていません。従来のエンタープライズアーキテクチャフレームワークには、デジタルビジネスがデジタル経済で成功し、成長するために必要な要素、プラクティス、さらにはテクノロジードメインそのものが欠けています。
一から作り直したいという思いは強いものの、既存のエンタープライズアーキテクチャに蓄積された知見や教訓は、失うにはあまりにも価値が高く、また多大なコストがかかっています。そのため、私たちはゼロから始めるのではなく、TOGAFを進化・拡張する道を選びました。
これが、書籍『デジタルビジネスのためのエンタープライズアーキテクチャ』を執筆する原動力となりました。その目的は、今後半世紀、さらにはその先までデジタルビジネスを可能にするエンタープライズアーキテクチャを定義することです。
この取り組みの成果として、初期の章を先行公開版(未編集)としてご紹介できることをうれしく思います。デジタルビジネスのニーズに応えるために、エンタープライズアーキテクチャをどのようにモダナイズできるのか、ぜひ私たちとともに探求してください。
著者について

Lori MacVittieは、F5のOffice of the CTOに所属するDistinguished Engineer兼Chief Evangelistであり、アプリケーションデリバリ、自動化戦略、インフラストラクチャに関する深い専門知識を有しています。AIエージェントのガードレール策定、脆弱なマルチクラウドアーキテクチャの分析、スケーラブルなシステムの限界の検証など、複雑な事柄を明快にすることで知られています。アプリケーション開発、ITアーキテクチャ、ネットワークおよびシステム運用の分野で、30年以上にわたる業界経験を有しています。F5入社前は、受賞歴のあるテクノロジー編集者として活躍していました。 MacVittieはコンピューターサイエンスの修士号を取得しており、セキュリティ、クラウド、エンタープライズアーキテクチャにわたる分野で多数の著作を発表しています。また、テーブルトークゲームとビデオゲームをこよなく愛し、チーズについては遠慮なく強いこだわりを語ります。
Lori Mac Vittieのその他のブログ記事関連するブログ記事

SOAS 2025:足並みの乱れが凡庸さを招く
AI導入における方針の不一致は、非効率を招きます。セキュリティ、自動化、導入の各戦略を整合させ、AIの可能性を最大限に引き出す方法をご紹介します。

WebAssemblyが重要な理由
WebAssembly(Wasm)は、あらゆるプラットフォームで高性能なアプリケーションを実現する、ポータブルで高速かつセキュアなバイナリ命令セットです。
インフラストラクチャは依然として格好の攻撃経路
クラウドコンピューティングでは、APIやドラッグ&ドロップ式の設定ツールを活用し、ネットワークやインフラストラクチャを敬遠する人がそれらを直接扱わずに済むようにすることで、インフラストラクチャへの対応を不要にすることが長年追求されてきました。しかし、インフラストラクチャを無視することも、攻撃の主要な標的であるという事実を見過ごすこともできません。
堅牢なデータアーキテクチャがもたらす戦略的メリット
適切に構築されたデータアーキテクチャがもたらす効果は、業務プロセスの改善にとどまりません。戦略的な業務効率の向上、より深いビジネスインサイトの獲得、隣接するビジネス機会への展開にもつながり、これらすべてをより俊敏に実行できるようになります。
デジタルワークフローにおける不正検知には、データだけでは不十分
2019年には、業界全体でクレジットカード詐欺の試みが約25万件確認されました。これは約2分に1件の割合です。今日、不正を検知するには、デジタルワークフロー上のできるだけ多くのポイントから収集したデータを相互に関連付け、手作業によるデータ処理をはるかに上回る速度で分析する能力が求められます。